日本市場でトリプル安が進む:円安けん制の長期利回り上昇容認が弊害を生み、日銀はジレンマに
10年国債利回りは一時1.1%台に
5月30日の日本の金融市場では、円安、株安、債券安のトリプル安傾向が強まった。同日の日経平均株価は、一時900円以上も値下がりした。前日の米国市場で株価が大幅に下落したことに加え、国内で長期利回りの上昇が続いたこと、円安基調が続いていること、が株価の逆風となった。 同日の10年国債利回りは、一時1.1%の節目に乗せた。これは、2011年7月以来の水準だ。米国では利下げに慎重な見方が広がり、長期国債利回りが再び上昇してきていることに加えて、日本銀行の追加利上げ、あるいは保有国債の削減、いわゆる量的引き締め(QT)が近い将来に実施されるとの観測が背景にある。ただし、市場が予想する日本銀行の早期追加利上げ、QT観測は、やや行き過ぎではないかと感じられる。 3月19日の日本銀行のマイナス金利政策解除後も、しばらくの間は、長期国債利回りは比較的安定を維持し、3月末にはなお0.7%台前半の水準にあった。上昇傾向を強めるきっかけとなったのは、5月13日の定例オペで、日本銀行が長期国債の買い入れ額を減額したことだ(コラム「日銀がサプライズの国債買い入れ減額:円安けん制が狙いか」、2024年5月13日)。
長期国債利回り上昇の円安抑制効果は大きくない
この措置は、QTの開始を示唆するものというよりも、円安進行を食い止めることが主な狙いだったのではないか。4月の金融政策決定会合で、日本銀行は円安を容認しているとの観測が市場に広がり、4月末には1ドル160円まで円安が進んだ。その後、日本銀行はややタカ派の発言を行うことや、円安に配慮する発言を繰り返すことで、「日本銀行は円安を容認している」との市場の観測を打ち消そうとしてきたとみられる(コラム「発言の修正で円安へのけん制を再度強める日銀」、2024年5月13日)。長期国債の買い入れ減額も、そうした流れの一環であり、目先の円安を抑える狙いがあったと考えられる。 しかし、日本銀行が長期国債利回りの上昇を促しても、円安を食い止める効果はあまり発揮されていない。ドル円レートは、米国側の利回り変化で決まる部分が大きいからだろう。政府は4月末と5月初めに2回の為替介入を実施したとみられるが、その影響で一時は1ドル151円台まで円高方向に押し戻されたドル円レートは、足もとで再び1ドル157円台まで円安が進んでいる。