<「新生自民党」ほど遠き>岸田首相退陣でも変わらぬメンバーと選挙戦、小林鷹之氏出馬でも“刷新”見込めない可能性
何度見てきたことか。政権運営に行き詰まった現職の総理・総裁が突如退陣表明する場面を。岸田文雄首相が、裏金問題の責任を取って自民党総裁再選を断念した。 前任の菅義偉氏も、不人気から同じ決断を余儀なくされた。わけのわからない理由で政権を投げ出した福田康夫氏もその例だ。民主党政権の鳩山由紀夫氏もそうだった。 岸田後継の予測は困難だが、ひとつだけはっきりしている。新総裁選びの過程、その結果を通じて首相の言う「新生自民党」の姿を示すことができなければ、国民の信頼回復はおぼつかないということだ。 〝ポスター〟を変え、 清新な印象を与えようとしても、旧態依然とした選挙なら、今度こそ国民から見放されるだろう。
名前が挙がる〝常連〟たち
岸田後継については、世論調査の人気レースでトップを行く石破茂元幹事長のほか河野太郎デジタル相、小泉進次郎元環境相の〝御三家〟に、茂木敏充幹事長ら〝常連〟の名前があがっている。 前回出馬した高市早苗経済安全保障担当相、野田聖子元総務相らの名が取りざたされるのも順当だ。若手では小林鷹之前経済安保担当相を担ぎ出す動きも活発化している。 石破氏は、岸田氏の退陣表明直後、訪問先の台北で早々と出馬への意欲を表明した。 これらの顔ぶれでの争いとなるのか、あらたな候補者が登場してくるのか現時点では予測が困難だ。自民党が変わったという印象を与えるために、選挙戦がどのような形式、選出方法で行われるのか、やはり注視しなければならないだろう。
察するに余りある岸田氏の無念さ
内政、外交をめぐる岸田内閣の功罪については、各メディアで論じられているのでそちらに譲る。 岸田氏は2021年10月、前任の菅義偉氏が1年余で政権を去った後継として登場した。直後の総選挙で議席減を最小限に食い止め、「絶対安定多数」の維持に成功した。 22年の参院選では自民単独での改選過半数を確保。支持率も一時60%近くにものぼり、25年の衆院の任期満了まで「黄金の3年」などといわれた。 しかし、参院選最中に安倍晋三元首相が撃たれて死亡した事件を契機に、自民党と旧統一教会との不明朗な関係が次々に明るみに出て、社会問題に発展した。昨年は、自民党内の政治資金パ―ティーをめぐる裏金、売り上げのキックバック問題で政権への風当たりが強まった。 首相はいちはやく自ら率いる派閥、岸田派を解散、政治資金規正法を改正、強化したが、逆風はやまず、支持率が20%台に低迷する状態が続いていた。 岸田首相自身、旧統一教会との接点をもたず、裏金問題でも〝主役〟は安倍派だったが、「所属議員が起こした重大な事態で、組織の長として責任を取ることに躊躇しない」(14日の退陣会見)と身を引く決断をした。 首相は、早い時期から決断していたともいわれ、自身も「当初から思い定め心に期してきたことだ」と心境を吐露しているが、やはり悔しさは隠しきれなかった。 トップとして責任はやむなしとしても、自らあずかり知らぬところで起きた問題で政権を去らなければならない無念さは察するにあまりあるが、「首相は恨みがましいことはまったく口にしなかった」ともいう。 退陣表明後、「世界情勢や経済状況を考えれば、岸田首相の続投がいいと思っていたので残念だ」(森山裕自民党総務会長)と退陣を惜しむ声が聞かれたのも、同情論からだろう。