46億歳?–土星の「輪」の形成過程を解明、年齢は定説よりもはるか昔の可能性
東京科学大学(旧東京工業大学)の兵頭龍樹氏や玄田英典氏などが、土星の輪が形成されるメカニズムを解明、土星の輪の誕生は、従来の定説よりもはるか昔である可能性があるという。2024年12月16日付で科学誌「Nature Geoscience」に掲載された。 理論とシミュレーションにより、従来考えられていた仮説の間違いを指摘、土星の輪が宇宙塵で極めて汚れにくいことを世界で初めて解明したとしている。従来、土星の輪の年齢は最大4億歳と考えられていたが、今回の研究で太陽系とほぼ同じ約46億歳になる可能性があるという。 宇宙空間には常に氷の状態の水をあまり含まない岩石質の塵が飛散している。この塵が、土星の輪が誕生してから輪に降り積もることで、時間とともに土星の輪には氷以外の物質が蓄積されると考えられている。探査機「Cassini」による観測から土星の輪の95%以上が氷で構成されていることも明らかになっている。 しかし、土星の輪は塵で汚れておらず、土星の輪が100%氷で生まれたとしても、輪の年齢は最大で約4億年と近年の研究で報告されている。家の床にホコリが時間とともに積もるのと同じで、ホコリの量からどの程度の時間が経ったかが見積もれるという理屈だ。 太陽系の形成と進化の理論研究からは、土星の輪が形成されるような大きな出来事は、46億年前など太陽系の初期段階に起こる可能性が非常に高いと説明される。つまり、これまでの理論と観測の間に大きなギャップがあることになる。 Google検索で土星の輪の年齢を調べると、「1億~4億歳」となる。つまり、土星の輪は比較的若いというのが定説として認識されている証拠としている。 今回の研究では、塵が土星の輪に降り積もらないメカニズムを解明したという。土星の輪が太陽系と同じ、約46億年の歴史を持つ可能性が示唆されたとしている。 研究では、(1)塵と土星の輪の粒子の衝突、(2)蒸発した塵の進化、(3)ナノメートルサイズの帯電凝縮物の土星磁気圏内での軌道進化――という3種類のシミュレーションで宇宙塵と土星の輪の関係を包括的に解明したと説明する。 (1)では、宇宙塵と土星の輪の粒子が衝突するプロセスをシミュレーションした結果、衝突は非常に高速で発生し、そのエネルギーによって塵が完全に蒸発することが明らかになっている。 (2)は、蒸発した塵が形成する蒸発雲の膨張と凝縮を解くシミュレーションであり、蒸発した塵はナノメートルサイズの凝縮物として再形成され、土星の磁気圏内で帯電するという。 (3)では、帯電した凝縮物の軌道進化を土星の磁気圏内を考慮してシミュレーション。帯電した凝縮物は土星の磁気圏内との相互作用から土星圏の外に吹き飛ばされたり、土星に引き込まれたりして、土星の輪にほとんど残らないことも明らかになった。 シミュレーションの結果は「土星の輪は、外部の塵によって極めて汚れにくい」ことを示している。このことから惑星の輪の年齢に新しい理解を提供するものになったと解説する。 研究の成果は土星の輪だけにとどまらず、宇宙塵が高速衝突する水星や天王星の輪、木星や土星の氷衛星にも応用できると説明。これまでの見かけに基づいた年齢推定の限界を再認識する必要性が浮き彫りになったと意義を説明している。 土星の輪は太陽系の中でも圧倒的に巨大な構造物であり、このような巨大な構造物が形成される一大イベントは、太陽系全体に影響を与える可能性が大いにあり得ると解説。土星の輪の形成時期と形成メカニズムを正しく理解するためには、太陽系の形成を深く理解することにつながり、このことは「地球がいつどのように生命を育む惑星になったのか」という問題を解決するきっかけになりえると説明している。 研究した兵頭氏はスペースデータ(東京都港区)で最高科学責任者(Chief Science Officer:CSO)を務めている。
UchuBizスタッフ