「最初はbabyみたいだった」…逆境を乗り越え、高校集大成の大会で花開いた慶誠・ロー ジョバ
大会初日、いきなり遅刻した。 「今大会の1回戦で、あの子は朝の集合時間に遅れて来たんですよ。3分くらいですけど遅刻は遅刻ですし、その日の試合もチームとしてうまくいきませんでした」 慶誠高校(熊本県)の右田卓也コーチが言う“あの子”とは、チームを初の準優勝へ導いたロー ジョバ(3年)のことだ。 指揮官は続ける。 「やはりチームスポーツですので、誰かが遅刻をしてしまうと雰囲気が崩れてしまいますし、ジョバにも結構長い時間を使ってその重要性を話しました。そこから本人もスイッチが入ったと思います」 チームは和歌山信愛高校(和歌山県)との1回戦を7点差で競り勝った。この試合、チームの和を乱した大黒柱のプレータイムは約15分。ジョバは深く反省した。 「私は遅れてるので、そこは先生が怒ってくれた。自分とミーティングをして、私が悪いことするとチームのメンタルが落ちるって思ったし、そこから集中した。時間も守りました」 セネガルから来た留学生。最初は日本語が話せず、「帰りたい。お母さんに会いたい」とホームシックになったこともあった。けれど、「チームと話してる時に聞くとか、ひらがなとカタカナを勉強した。映画も大好きなので、映画を見るときに日本語にしたりした」と、今では日本語でコミュニケーションが取れるようになった。 いざコートに立てば、187センチのサイズとフィジカルを駆使してゴール下で存在感を放つ。ボールハンドリングもお手のもので、3ポイントシュートを決めることだってできる。『SoftBank ウインターカップ2024 令和6年度 第77回全国高等学校バスケットボール選手権大会』の6試合では、合計163得点95リバウンドをマーク。1試合平均27.1得点15.8リバウンドという数字を残し、今大会を彩った主役の1人に躍り出た。 チームとしては今大会が3年連続の出場。しかし、ジョバにとっては2回目のウインターカップだった。1年目は3回戦で京都精華学園高校(京都府)と顔を合わせ、35-81で完敗。当時1年生だったジョバはこの試合で18得点14リバウンドを挙げたが、「あのときのウチェはやっぱり強かった」と京都精華学園のイゾジェ ウチェ(現・シャンソン化粧品 シャンソンVマジック)に手も足も出なかった。 迎えた2年目、ジョバはウインターカップ前の11月に右膝を負傷。前十字靭帯断裂の大ケガに見舞われた。 「やっぱり悔しかったし、自分はきつかった1年間だと思います。あのときはヒザのリハビリもトレーニングもやらないといけなかったし、頑張って早く戻れるようにしました。最初は怖かったけど、どんどん1人で走ったりスピードの練習をしたり、みんなが練習のあとに軽いディフェンスをしてくれたり、そうやって頑張りました」 逆境にも挫けず、手術とリハビリを乗り越えたジョバに対し、右田コーチは「本当にいろんな人たちに支えてもらいました。ジョバが今プレーできているのは周りの人たちの支えがあったからこそ、というのは本人に伝えていますし、本人もそういった気持ちや言葉を発してプレーするようになりましたので。そのあたりは大人になったなと感じています」と成長を口にする。 ジョバ自身は、この3年間で一番成長できた点について「メンタル」と話し、こう続けた。 「日本に来たときはメンタルがbabyみたいだったけど、そこは自分でやらないといけないって思いながら頑張って、できないこともできるようになりました」 紆余曲折の3年間を過ごし、ジョバ、そして慶誠高校は熊本県勢初となるウインターカップ準優勝に輝いた。 「ウチェは強いけど、今戦うと守れるって思います」。高校生活最後の大会を終え、ロー ジョバはそう言ってはにかんだ笑顔を見せた。 文=小沼克年
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