パリ五輪・卓球団体、日本勢に足りなかったものとは? ベストを尽くした選手たち。4年後に向けた期待と課題
金メダルを懸けた女子団体、決勝戦での「サプライズオーダー」
女子団体戦、決勝。日本VS中国。この試合、まずはオーダーのサプライズから始まった。 早田ひな・張本美和組というタッグだ。この采配からは、渡辺武弘監督の「何がなんでも1つ取る」という強い闘志が感じられた。 結果は逆転負けとなったが、ファイナルゲームでは5-5という場面から絶好調の16歳、張本美和のバックドライブがクロスに決まる。続いてストレートにもノータッチで決まって7―5にまでなった。この時には誰もが打倒中国への夢を見た。 中国を倒すには、常に「ここぞの場面でのサプライズプレーが必要」と言われていた。そこを「監督の采配によるサプライズで幕を開ける」という形。 粋で、かつ、ギリギリの勝負に出た策士の賭けだ。負けはしたが、この采配にはシビれた。 第2試合は、平野美宇VS孫穎莎。 渡辺監督のサプライズ采配は、「手負いの状態だが、サウスポーの利点がある早田でなんとか1勝するダブルスを」という点だけでなく、「世界ランク1位の絶対女王である孫に勝ったことがある平野をぶつけて一発勝負に出る」という点も盛り込まれていた。 結果は、持ち前のハリケーンを存分に発揮しながらも0-3で完敗。しかし、この対決を挑んで負けたのであれば仕方がない。今回は納得の結果だろう。 第3試合は、今大会でやはり「台風の目」となった期待の張本美和。世界ランク3位の王との対戦。1ゲーム目をデュースに持ち込み、14-12で勝ち切るが、そこから王にエンジンがかかり1-3で王に敗れた。 最終結果は0対3で中国の前に屈した形だが、1番手ダブルスの奇襲が決まりかけ、平野の世界王者への真っ向勝負に夢を見た、真の総力戦だった。
水谷隼の目に見える「足りないもの」
大会後、レジェンド・水谷隼は『強くなるための5箇条』というものをXに投稿した。 絶対に無駄なボールを生み出さない。 絶対にノータッチをしない。 卓球が怪我なくできてることに感謝する。 自分ではなく周りの人のために頑張る。 自分がミスするたびに人を傷つけていると思え。 というものだった。特に5つ目は衝撃的だった。エンジョイ卓球か。勝ちに固執する卓球か。その極論とも受け取れる。 これには反響も大きく、リオデジャネイロ五輪で日本男子初となる団体での銀メダル獲得に貢献した吉村真晴が「五番目は厳しすぎ…」「卓球嫌いになりそう…」と反応した。だが、これは20歳前後の、世界一を目指し、卓球を突き詰めたい若き選手にとって、もしかすると“響く”言葉なのかもしれない。 かつて、「卓球で中国を倒すために犠牲にしてきたことは?」と聞かれ、「すべて」と答えた水谷ならではの境地。世界の頂点を狙うために必要だという考えに至った5箇条なのだろう。この投稿からも感じ取ることができる、水谷が現在の日本卓球に“足りない”と感じるのは、勝ちに固執していく“執念”のようなものではないだろうか。 今回の男子団体のスウェーデン戦では「何か決定的なもの」が足りなかったように感じられた。それこそが、水谷が感じているような“覚悟”や、試合を詰め切る“執念”だったのかもしれない。 日本代表の選手たちは、誰もが全力を出し切っていたと思う。しかし、相手も全力を出し切ってくる。最後は全力以上のものを出せたほうが勝つ。それが“捻じ伏せにいく”、執念と闘志なのではないか。 「いいところまでいっているのに」「途中までは勝っていたのに……」。多くのファンが抱いた印象だと思う。相手が驚異のスウェーデンでも、ホームの歓声の後押しを受けた開催国フランスでも。メダル獲得は常に紙一重のところにある。 本当に難しいのが、「あとひと押し」だ。 執念と闘志。あまりにも抽象的で、精神論に近いかもしれない。それでも……。男子団体戦の3位決定戦、最後の最後、フランスのエース、フェリックス・ルブランの目はあまりにもギラギラしていた。持っている実力以上に相手を捻じ伏せる執念と闘志が見て取れた。スウェーデンだけでなく、フランスも勝負所で強かったのだ。