カマラ・ハリスのファッションに見る、新時代の女性リーダー像
側近が去ってもなお剛腕を貫いたサッチャーであるが、服装は常にエレガントで女性らしい装いを好んだ。そして外見を磨く努力を惜しまなかった。厳しい食事制限を課し、美容室には3日に一度のペースで通った。首相就任後に世界中に写真が出回ることを見据えて、2週間で体重を9キロ減量した話は有名である。 外見を整えることにこれほどストイックな姿勢を保ち続けることは、政治的打算だけではまず無理だろう。サッチャーの自伝からは、彼女にとってファッションというものが、幼少の頃から趣味以上のものであったことがうかがえる。政治家である前に一人のファッションを愛する女性だったサッチャー。その原点は中学時代にさかのぼることができる。
自分らしい装いを貫いて
サッチャーは、中学校時代に校長先生のファッションを楽しみにしていた。「私は、ウィリアムズ先生が重要な日に着てくる特別な服が好きだった」と自伝のなかで回想している。「彼女は美しいシルクの服を身につけたが、ゆったりとした仕立てで、この上なく優雅に見えた」。ウィリアムズ先生は、女学生たちを指導する者の責務として、服に対しては常に一家言ある人だった。「同じ金額で質の良い綿を買えるのなら、決して質の悪いシルクを買ってはいけない」と彼女は教えていた。「収入の範囲内で質のよいものを」というウィリアムズ先生の教えを、サッチャーは晩年まで覚えていた。 またサッチャーの母親は、婦人服の仕立て師だった。地元のグランサムやノッティンガムの特売セールで最上質の布を安く買い、母親に服を仕立ててもらうのが、幼少期の彼女の楽しみの一つだった。
「父が市長をやった年には、母は2人の娘にドレスを新調してくれた。姉にはブルーのベルベット、私にはダークグリーンのベルベットだった」と回想している。どうやらブルーやダークグリーンの服はサッチャーの幼少時代の幸せな思い出とひも付けられていたようだ。首相時代のサッチャーはブルーやダークグリーンの服をよく着ていた。ブルーは保守党のシンボルカラーでもあるが、幼少の頃に母親が姉妹に与えたドレスの色が、大切な思い出としてその後も彼女の心に残り続けていたのかもしれない。亡くなる一カ月前にも、ダークグリーンのコートを身にまとっていた。