カマラ・ハリスのファッションに見る、新時代の女性リーダー像
「強さ」と「親しみやすさ」を兼ね備えた新時代のリーダー
演説や集会では、カジュアルでリラックスしたスタイルが多く、親しみやすさを演出するための服装選びが目立つ。ジーンズにブレザーを合わせるスタイルも多い。このように、ハリスはその場の状況や役割に応じてファッション・スタイルを柔軟に切り替えることにもたけている。 地方検事や司法長官時代にはワンピースやスカート姿で登場することも珍しくなかったが、政治家になってからは圧倒的にパンツスーツ姿が多い。これは、アメリカ合衆国大統領に求められる役割が影響しているのだろう。アメリカ大統領は、一国の政治指導者であるのみならず、アメリカ軍の総司令官であり、戦争遂行の最高責任者でもある。そのため、女性にその能力があるかが常に疑問視され、論争の的となってきた。パンツスーツは、女性であっても軍を率いるにふさわしい印象を与える便利な装いである。 だが海を隔てた英国に目を転じれば、パンツスーツを決して身につけず、スカートを常用し、なおかつ戦争を指揮して勝利を収めた女性政治家がいた。英国初の女性首相マーガレット・サッチャーである。
ハリスと対照的な「鉄の女」流ファッション戦略
サッチャーほど、ファッションを政治の武器として使いこなした人物が他にいただろうか。上品でふんわりとしたヘアスタイル、パールのネックレスとハンドバッグを欠かさず、クラシカルなスーツにボウタイを組み合わせた独自のスタイルは、今なおファッション誌に特集されることもある。英国のブランドである「アクアスキュータム」や「アスプレイ」を愛用した、その気品あふれる装いは、彼女の強すぎる個性を覆い隠すことにも大いに役立った。
サッチャーは首相として、国民の猛反発を顧みずに、いわゆる人頭税を導入し、あまりの強硬ぶりに大物閣僚たちが辞任してサッチャー政権は終焉(しゅうえん)を迎えた。イギリスとアルゼンチンが戦火を交えたフォークランド紛争では一貫して武力による島の奪還を唱え、軍隊の派遣に尻込みする閣僚たちにこう詰め寄ったと言われている。「わが内閣に男は1人しかいないのか」