こんなん泣くわ…長年不仲だった「父の遺言状」に次男が涙した理由
財産分与が不平等になってしまった時や、あぶく銭と勘違いして散財されてしまいそうな時……遺言書の末尾に、相続人たちに対する感謝の言葉や財産のストーリーを書き加えるだけで、心象はだいぶ違ってくるはずだ。自身も相続問題に見舞われた経験を持ち、2000件を超える相続遺言実務を行ってきた相続遺言専門行政書士が、残された人たちのハートに響く「付言」の極意を教える。※本稿は、佐山和弘『「本当に」使える遺言書の取扱説明書』(中央経済社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 不仲だった息子との思い出を付言 「本当は自慢の息子だった」 付言例(1) ○○(二男)へ、 ○○(二男)が小1の頃だったかな。当時、工場が不況で、もう畳もうかな、畳もうかなと毎日思っていたんだけど、救ってくれたのが○○(二男)の寝顔だったんだ。本当に可愛くて見るたびに『頑張らなきゃ!』と勇気をもらったんだ。それから中学生のとき『お父さん、絶対部活(野球部)は見に来ないで』と毎日言われてたよな。 だけど○○(二男)には初めて言うけど、最後の夏の大会をこっそり見に行ったんだよ。そしたら3年生の中で○○(二男)だけがユニフォームに背番号が無かったんだよな。補欠の姿を見られたくなかったから来てほしくなかったのかな。馬鹿だなあ、そんなこと気にするなんて。 でも、そんな○○(二男)が一番大きな声を出してたよな。マウンドに全速力で伝令に走って皆の肩を叩いて気合入れたり、三塁コーチのすぐ後ろでコーチよりも大きく手をグルグルと回したり、誰よりも輝いてたぞ! 監督さんに「息子さんはチームの宝です!」と言われたときは父親としてこんな誇りに思ったことはないよ。 そんな○○(二男)ももう30過ぎて、今どこをほっつき歩いてるかわからないが、たまには一緒に酒でも飲みたいよ。だって自慢の息子だもん。
● 遺言書の財産分けは冷たい内容 だけど付言で温かい贈り物に これは数年前に亡くなった町工場の社長さんの付言です。 二男とは長年不仲だったそうですが、一方で「商売のこともあるから、二男のやつには何も遺してあげられないけど、二男のことは可愛くてしょうがないんだ」ともおっしゃっていました。 そこで私が「たとえばどんなところですか?」と尋ねたときに照れくさそうに語ってくれた内容の一部を遺言の付言とされたのです。 葬儀を終えた1週間後、私は預かっていた遺言書の内容を伝えるためにご自宅を訪問しました。相続人は奥様、長男(事業後継者)、二男(亡父と長年不仲)です。遺言書を読もうとしたところ二男は「興味ないから」と私に背を向けて聞こうとしませんでした。 しかし、本文を読み終え、この付言に差し掛かった3行目には背を向けていた二男の肩が揺れていました。泣いていたのです。私がご自宅を去るときに、「親父には参りました。ありがとうございました」と笑顔で送ってくれた二男の顔が印象に残っています。遺言執行手続きも無事に終わりました。 遺言書の財産分けの報告は二男にとってはとても冷たい内容のものです。だからこそ、付言でハートを込めて温かい贈り物にしてあげてください。今不仲でも掛け値なしに可愛いときがあったはずです。「事情があって配分は偏るが、愛情には差がないんだ」ということが伝わるようにです。