横浜F・マリノスの23歳FW前田大然が大久保嘉人に並ぶJ1得点ランク首位…そのブレイクぶりが凄い理由とは?
追加点へのスイッチを入れたのも前田だった。ボールをもったセンターバックの岩波拓也へ、岩波からバックパスを受けた西川へ立て続けにプレスをかけ続ける。何とかプレッシャーをかいくぐろうと、西川から阿部、岩波、そしてMF伊藤敦樹へパスが回った直後だった。 伊藤がワンタッチで前方へつなごうとしたボールを、狙いを定めていたかのように間合いを詰めてきた扇原がカット。こぼれ球を拾ったマルコスから、ゴール前へポジションを取った仲川へわたるパスを視界に入れてスプリントしながら、前田は仲川へ念を送り続けていた。 「ボールが入ったときに僕に落としてくれたら、と思っていました」 果たして、背後からDF槙野智章にプレッシャーをかけられた仲川は、体勢を崩されながらも前田へ胸でボールを落とす。思いが通じた前田は「冷静に当てるだけでした」と今度は右足でボレーを叩き込み、7日のサンフレッチェ広島戦に続く複数ゴールをマークした。 敵陣の深い位置でマリノスがボールを奪ってから前田がゴールするまで、1点目は9秒、2点目は6秒しか要していない。スプリントを繰り返すたびに、身体には代償となる負荷が蓄積される。それでも「無意識のうちに走っている」と前田は満足感を漂わせる。 「前からボールを取れれば一番のチャンスになるし、やっぱり前の選手がスイッチを入れないと後ろの選手も動けない。僕は大きくないし、前線で張るタイプでもない。動き回って相手のディフェンスをかく乱させるのが僕の使命だし、それを守備でも攻撃でも上手くできていると思っています」 100mを15秒で走る時速24kmを上回る走りを、1秒以上にわたって継続させた場合にJリーグでは「スプリント」と定義される。そして、1試合における走行距離と合わせたトラッキングデータを2015シーズンから、J1リーグの試合に限定する形で公表してきた。 山梨学院附属高校から2016年に松本山雅FCに加入し、期限付き移籍した水戸ホーリーホックを含めて3シーズンにわたってJ2でプレーしていた前田の潜在能力を、当時松本を率いていた反町康治監督(現日本サッカー協会技術委員長)はこんな言葉で表現していた。 「大然と2秒の差があったら、我々は50mで勝つことができる」 要は「2秒あれば50m差を挽回してくれる」――前田の爆発的なスピードと加速度が、決して大げさな表現ではなかったことが松本にとって2度目、前田にとっては初めてのJ1での戦いとなった2019シーズンに、驚異的な数字の数々を介して証明された。