なぜ侍ジャパンは米国戦逆転サヨナラ勝利で4強進出を決めることができたのか…「投手層の厚みと日本得意の小技」
まだ見ぬ五輪の金メダル獲得へ向けて、野球日本代表「侍ジャパン」が高く険しい壁を乗り越えてベスト4進出を決めた。 東京五輪11日目の2日に横浜スタジアムで行われたアメリカ代表との準々決勝。先発の田中将大(楽天)、3番手の青柳晃洋(阪神)が打ち込まれ、一時は3点のリードを許した日本は土壇場の9回裏に柳田悠岐(ソフトバンク)の内野ゴロで6-6の同点に追いつくと、タイブレーク方式で行われる延長10回裏一死二、三塁から甲斐拓也(ソフトバンク)が右越えにサヨナラ打。3時間53分におよぶ死闘に決着をつけた。 1次リーグからすべて逆転で、参加6ヵ国中で唯一の3連勝をもぎ取った日本は、4日の準決勝(横浜スタジアム)で韓国代表と対戦。勝てば銀メダル以上が確定する。
甲斐が「打っていいですか?」と直訴
バットを握ったままの右手を、小雨が降り始めた横浜の夜空へ高々と上げたままヒーローは一塁へ走っていった。アメリカのライト、フィリアは、頭上を越える打球を追おうともしない。仲間たちの手荒い祝福を受けた甲斐が、試合後に声を弾ませた。 「いろいろと考えられる状況だったので頭のなかを一度しっかりと整理して、稲葉監督の話も聞いた上で、初球から思い切り振りにいった結果だと思っています」 無死一、二塁から始まるタイブレーク方式の延長戦。代打・栗原陵矢(ソフトバンク)が初球でしっかりと送りバントを決めると、アメリカのマイク・ソーシア監督が動く。センターのロペスを二塁ベース付近に配置して内野を5人に増やした。 ヒットはもちろんのこと、外野フライやスクイズでも勝負が決まる場面。実際に甲斐はドミニカ共和国との1次リーグ初戦で、同点のセーフティースクイズを決めている。 WBCにコーチとして2度出場し、三塁コーチを務めるなど豊富な国際経験を持つ元阪神コーチの高代延博氏は、五輪の舞台で3連敗を喫していた難敵・アメリカを逆転で退けた要因を、「日本の強みが勝負を決めたと言っていい」と評価する。 「強みとはピッチャーの頭数の層と小技だ。アメリカはマクガフの次は、もう力のある投手がいなかった。逆に日本は大野(雄大=中日)、栗林(良吏=広島)といって、さらに回が進んでいたとしても平良(海馬=西武)がもう1枚いた。代打の栗原はしびれる場面でよくバントを決めたと思う。米国がバントシフトでプレッシャーをかけてこなかったので楽な面はあっただろうが。米国が敷いた5人内野シフトは、広島時代に三村監督が巨人戦でやったことがある。犠牲フライであろうが、外野に打たれたら終わり、何がなんでも内野ゴロに仕留めるという布陣。当然、投手は低目でゴロを取る投球を要求される。甲斐にはそれが頭に入っていたのだろう。初球から積極的にいったが、引っ張らずに逆方向を意識していた。これも準備の勝利だ」 思考回路を整理した甲斐は狙い球を絞った上で、稲葉篤紀監督に確認した。 「打っていいですか」 ドミニカ共和国戦ではセーフティースクイズを決めている。 それゆえ甲斐は稲葉監督に「強打か」「セーフティースクイズか」を確認したのだが、メキシコ代表との1次リーグ第2戦でも同点タイムリーを放つなど、ラッキーボーイ的な存在になりつつある甲斐へ、3日に49歳になる指揮官も笑顔でうなずいた。 「打っていいよ」 緊張感が高まる場面でかわされた微笑ましいやり取りも、甲斐の迷いのないスイングを導いた。延長戦から登板したアメリカの7番手、エドウィン・ジュニアが投じた初球、外角低目へ落ちてくる変化球を引っ張らず逆方向へ完璧に打ち返した。