排便がないと受診した59歳男性が大腸がん 検診結果は陰性だったのになぜ?…早期発見のために必要なこと
大腸内視鏡なら早期のがんが見つかる
どうしても便潜血反応検査には限界があります。Aさんの場合は、たまたま腹部膨満感をきっかけに受診して大腸がんが見つかりました。この検査で陽性になった場合はもちろんですが、40歳以上になったら、一度大腸内視鏡検査を受けていただきたいと思います。大腸ポリープは加齢によって増え、そこから大腸がんになるからです。便潜血反応検査を受けるだけではなく、もし出血などの症状に気づいたら、大腸内視鏡検査を受けてください。それが、早期に大腸がんを見つける方策です。
早期発見で完治の可能性高まり、治療も体の負担が少ない
さて、それでは早期に大腸がんを見つけるメリットは何でしょうか。一番は、早く見つけて処置をすればそれだけ完治の可能性が高くなることです。そしてもうひとつは、治療が内視鏡手術だけで終わることです。がんが進んでしまうと、それでは対処できず、おなかに穴をあけてそこから器具を入れて腸を切除する腹腔(ふくくう)鏡手術や、おなかを開く開腹手術になります。そうなると体への負担が大きくなり、入院期間が延びます。
内視鏡手術の対象が広がった
内視鏡手術と言えば、以前はごく早期の小さながんにワイヤをかけて焼き切るものだったので、紹介したAさんのような平坦に広がるがんは対象になりませんでした。その場合、腹腔鏡手術などで大腸を切除することになりました。しかし内視鏡手術の技術が進歩し、2012年からは、多少広がったがんも深く進んでおらず、リンパ節転移の可能性が低いと判断されれば、内視鏡を使ってそいでいく粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)という方法に保険適用されるようになっています。Aさんを公的病院の消化器外科に紹介すると、この治療法の対象になり、内視鏡で手術を終えました。 検診で便潜血反応検査を受けるのは、がんがあった場合、早期に見つけるのが目的です。しかし偽陰性大腸がんもあります。早期発見のメリットはとても大きいので、大腸内視鏡検査のことを頭に置いておいてください。
松生恒夫(まついけ・つねお)
1955年東京生まれ、80年慈恵医大卒。94年松島病院大腸肛門病センター診療部長。2003年、東京都立川市に松生クリニック開業。日本消化器内視鏡学会指導医で胃・大腸内視鏡検査の経験豊富。「便秘外来」を開き、食事療法による症状改善にも取り組んでいる。一般向けの著書は170冊を数え、中国語・韓国語に翻訳されているものもある。