「もう時代後れ」日本の株式会社が見失ったもの 優秀な社員たちの解放が必要な真っ当な理由
たしかに視点を変えてみれば、それまで見えていなかったことが見えるようになったりもする。それこそが著者のいう、「若い人が中心となって、個人の能力を存分に発揮する企業」のあり方なのではないか。 これまで経済の主流は株式会社だった。だが、この制度はすでに時代との齟齬をきたしている。 現場で働く人と、株主や取締役との間にできた溝は、広く深い。 株主は経営陣に対して「利益の最大化」を求める。その命を受けた社長と取締役は、社員に「前年より利益を増やせ」と号令をかけ、売上が不調ならリストラ策によって利益を絞り出し、神(株主)に上納する。
その見返りとして、社長や取締役は巨額の報酬やストックオプションを手にする。 (230ページより) だが、こうしたあり方が現代においてはまったく適したものでないことは、誰の目にも明らかだろう。 だからこそ、企業は「未来型組織」に変貌する必要があると著者は主張するのだ。いまの会社を、個を中心として組みなおす必要があるということである。 そこで目を向けるべきが、東京大学教授の柳川範之氏による定義だ。次代の「会社」を、「人と人がインタラクション(相互作用)する場所」にすべきだという考え方。
そして興味深いのは、それを音楽にたとえている点である。 人と人とが引かれ合って集まり、ある音に他のメンバーが呼応して音を出し、1つの曲を一緒に奏でることができる状態であり、それを柳川氏は「ロック型組織」と表現したそうだ。 ■「ロック型」組織とは クラシックは古典楽曲を忠実に演奏していく。演奏者は固定され、指揮者のもとに一糸乱れずに役割を遂行する。これまでの日本の「会社」は、多くがこのタイプに分類される。
だが、このスタイルは一部のインフラ企業や警察、軍隊などの組織には機能し続けるが、ほかの組織では徐々に使われなくなっていく。 一方、ロック型組織は、時代に合わせて新しい楽曲(成果)を作り続ける必要がある。そのためにメンバーが入れ替わり、観客(顧客)の反応を見ながらライブ(演奏)を続けていく。 しかも、観客を前にして、一発ギグ(即興演奏)を決めることも多い。 (232ページより) これは非常にわかりやすいたとえだ。バンドが時代に合わせ、最高の音を奏でるためにメンバーを組み替えていけば、必然的に時代の要請に応えることのできるサウンドが生まれる。
それこそまさに、「未来型組織」のあるべき姿だということなのだろう。
印南 敦史 :作家、書評家