「もう時代後れ」日本の株式会社が見失ったもの 優秀な社員たちの解放が必要な真っ当な理由
毎朝、冊子の読み合わせをして社員を洗脳し、統率するのであれば、それは「利他」ではなく「利己」そのものである。つまりは「利他」の概念は稲盛氏が説いたとおりに使われていないわけだ。 事実、社内で「利他」という言葉が使われる際、それは顧客や取引先を指すものではなく、「株主様のため」というフレーズが繰り返されるのだという。 ■優秀な社員ほど定着しない 「株式の50%近くを創業者が握っているので、(株主様のためというのは)結局は自分の利益という構図となる」
そして、厳しい社内ルールが制定されていった。ワイシャツは白、スーツは黒、紺、グレーに限る。創業者を囲んだゴルフ会が頻繁に開かれ、帰ったらすぐにお礼のメールを出さなければならない。 「このメールが遅れると嫌味を言われる。文章の長さも人事評価につながる」 (40ページより) もはや、なにが「利他」なのかわからない状態で、むしろギャグといったほうが合いそうだ。 しかしこれは一例にすぎず、極めつきはこの会社にある「誉(ほまれ)休暇」である。営業成績がトップになると有給休暇を使う権利が与えられ、机の上に「誉給与」という厚紙でつくった三角錐が置かれるというのだ。
そもそも有給休暇を使う権利は、社員が持っているものではないだろうか。しかしここでは、基本的に病気などの理由以外で有給を申請することは禁止されているのだという。 あきれた「利他」のあり方だが、優秀な社員ほど定着しないようだ。当然のことながら、理不尽なルールに反発して辞めていってしまうためである。 この会社はほんの一例にすぎないが、日本にはこうした企業が決して少なくないのではないだろうか。 しかしその一方、そうした旧来的な価値観に縛られることなく、独自の路線を突き進んで成功している企業も出てきている。
本書の後半ではそれが例示されているのだが、そのひとつが千葉県の房総半島を横断する全長39キロメートルのローカル線である「小湊鐵道」だ。 ■夢物語が現実に 同社については、そのユニークな取り組みがマスコミで取り上げられることも多い。とにかく人の壁がなく、経営トップの石川晋平社長と従業員たちが仲間か同志のようにやり取りをしているのだ。 特徴的なのは、社長である石川氏が比較的若いにもかかわらず、60代、70代の社員が多いこと。それでいて20代、30代の若手も次々と入社してくるのだという。