イギリスの政治と日本の政治 何が違うのか 内山融・東京大学大学院教授
日本政治のイギリス化?
最初に「まず小泉政権以前の日本政治に話を絞る」と断った。21世紀に入ってからの日本政治は、上記のようなものから大きな変化を見せたからである。すなわち、選挙制度改革や中央省庁等改革が実施されたことにより、首相のリーダーシップが大きくなり、トップダウン型の政策決定が行われるようになった。 1994年に実現した選挙制度改革では、衆議院の選挙制度をそれまでの中選挙区制(定数が3から5)から小選挙区比例代表並立制に変えた。中選挙区制では大政党に公認されなくても当選する可能性が高かったが、小選挙区制や比例代表制では大政党の公認をもらえないと当選しにくくなる。個々の議員にとっては公認をとれるかどうかが死活問題となったため、公認権を持つ党首に従うようになった(2005年の総選挙で、小泉政権が郵政民営化に造反した議員を公認せず、「刺客」を放ったことを思い出されたい)。 2001年から実施された中央省庁等改革では、内閣府の新設や内閣官房の強化、副大臣制の導入など、首相と大臣を補佐する仕組みが増強された。そのため、各省庁の官僚に対しても首相・大臣が主導権を振るえるようになった。小泉構造改革、民主党の政治主導、安倍政権の官邸主導など、21世紀になってからトップダウン型の政治運営が目立つようになったのはこのような事情である。 いわば、近年の日本政治はイギリス型に接近してきた。自民と民主の二大政党制が成立し、政権交代も実現したという点でも、日本政治が「イギリス化」してきたといえよう。 もっとも、日英の相違はまだ残っている。日本でも党本部の権限が強くなったとはいえ、個々の議員が後援会に依存して選挙戦を戦う仕組みは基本的に変わっていない。イギリスの上院(貴族院)は下院に対して弱い権限しか持たないが、日本の参議院は強い権限を持っている。これらの点で、日本政治は完全にはイギリス型になりきれないかもしれない。