アートとAIの法律基礎知識。生成AIを使って作品制作をするとき、気をつけるべきポイントは? 弁護士・小松隼也が解説【特集:AI時代のアート】
3. 生成AIを使用して作った作品は著作権で保護されるの?
じつは著作権法の規定からすると、生成AIが生成したコンテンツには著作権が生じないと考えられています。だからといって、生成AIを作品に使用したら、その作品には著作権がまったく発生しないかというと必ずしもそうではありません。 ある作品の制作において、その一部分に生成AIを使用した場合、その部分については著作権が認められないことになりますが、それ以外の部分を人間が制作していれば、人間が制作した部分については著作権が認められます。 もっとも、実際に作品を制作する際に、「ここからここは生成AIが制作して、ここからここは人間が制作した」と、きれいに切り分けられる場合は良いのですが、そうとも言えない作品もあり得るかと思います。たとえば、下絵に生成AIを使用したり、作品の背景の補正や線の補正、色味の補正など、従属的な部分の制作に生成AIを使用したりしていても、主要部分の描画を人間が行っていれば、生成AIはあくまで道具として用いられたに過ぎないと言うことができ、作品全体に著作権が認められることもあるように思います。 他方で、人間の関与が、生成AIのプロンプトにアイデアやコンセプトを入力しただけの場合には、生成された画像の主要な部分を人間が制作したとは言えないため、著作権は生じないと考えられています。なお、生成AIを用いた画像の生成という行為の主要な部分は、「プロンプトを入力すること」なので、主要な行為を人間が行っていると言えそうでもありますが、著作権との関係ではあくまで表現物である画像の創作的表現に関して、その主要な創作行為を人間が行ったかという観点で判断します。こちらも参考例を用いて考えてみましょう。 参考例 • 「特定のモチーフをキャンバスに描き、その上から何層も鮮烈な色を上塗りして、スキージ(板)をキャンバス上に滑らせていく手法で制作した抽象絵画」というプロンプトを生成AIに入力して生成された画像 →人間はプロンプトを入力したのみで、表現物である画像の創作的な制作には実質的に関与しておらず、機械の関与しか認められないので著作権は生じない。 • 人間が実際に特定のモチーフをキャンバスに描いたうえで、その上から何層も鮮烈な色を上塗りして、スキージ(板)をキャンバス上に滑らせていく手法で制作した抽象絵画の写真を画像データとしてPCに取り込み、その色味を生成AIを用いて補正したり、ブラッシュストロークの描画を生成AIを用いて調整したりした画像 →作品の表現の主要な部分を人間が実質的に制作しており、生成AIの関与は道具としての関与に過ぎないと考えられるので著作権は生じると考えられる。
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