アートとAIの法律基礎知識。生成AIを使って作品制作をするとき、気をつけるべきポイントは? 弁護士・小松隼也が解説【特集:AI時代のアート】
2. 生成AIを使用して作品のコンセプトやアイデア、制作方法を考えた場合、著作権侵害となるリスクは?
じつは作品のコンセプトやアイデア、制作方法といった、この世に表現が実際に表れる前の段階の要素は、著作権では保護されません。これらの要素も著作権で保護されると誤解されていることが多いのですが、著作権で保護されるのは実際に表現として表れたもののみとされています。 ですので、コンセプトやアイデア、制作方法を生成AIを使用して考えたとしても、著作権侵害のリスクはないと言えそうです。もっとも、注意が必要なのは、生成AIに考えてもらったコンセプトやアイデア、制作方法を用いて、いざ具体的な作品を制作した際に、そこに表れた表現としての作品が他人の作品と似てしまった場合には、結果的にその段階で著作権侵害の問題が生じます。この点は分かりづらいので参考例を用いて考えてみましょう。 参考例 • 生成AIに作品のアイデアを生成してもらったところ、「精密に模写したモノクロ写真のイメージを微妙にぼかした作品」「風景写真やスナップ写真の上に油彩やエナメルでカラフルなブラッシュストロークを一部上塗りする作品」「特定のモチーフをキャンバスに描き、その上から何層も鮮烈な色を上塗りして、スキージ(板)をキャンバス上に滑らせていく手法で制作した抽象絵画」というアイデアや制作手法を生成してくれたので、そのような作品を制作した →リヒターの代表的な「フォト・ペインティング」「オーバーペインテッド・フォト」「アブストラクト・ペインティング」のアイデアや制作手法であるが、これらは表現そのものではないので著作権では保護されず、そのような作品を制作したとしても作品のモチーフや構図、色彩といった表現が似ていない限りは著作権侵害とはなりません。ただし、炎上のリスクや作品としての価値はまた別の観点から問題になるので、あくまでここでは参考として。 もう一点、生成AIを使用して生成された画像がほかの作家の作品の作風と似てしまった場合には、著作権侵害のリスクはあるでしょうか? じつは作風も著作権では保護されないと考えられており、この点も誤解されていることが多いです。 したがって、リヒターの「フォト・ペインティング」や「オーバーペインテッド・フォト」「アブストラクト・ペインティング」風の画像が生成されたとしても、既存のリヒターの作品とモチーフや構図、色合いなどが似ていなければ著作権侵害とはなりません。ただし、作風を超えて、具体的な表現としての作品の構成要素が既存作品と似てしまっている場合には著作権侵害の可能性が生じますし、それらが似ているか似ていないかの判断は専門家でも難しいことが多いので注意が必要です。
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