《ブラジル》記者コラム 〝影の立役者〟松林要樹監督 政府謝罪に導いた重要な映画 ブラジル近代史の一隅を照らす
原一男監督「闇に埋もれた事件を良く掘り起こした」
日本で『オキナワ サントス』が初公開された21年8月、松林さんの師匠・原一男監督が同映画に関するコメント(https://www.youtube.com/watch?v=f7ovphEuRSg)を残している。『ゆきゆきて、神軍』(1987年)や『全身小説家』(1994年)など〝怪作〟ドキュメンタリー映画の監督だ。 いわく《闇に埋もれた事件を、良く掘り起こしたのは、もっとマスコミがきちんと評価して、書いてくれないと、作り手としてはせっかく作ったのに、なんかがっくり来るじゃんね。がっくりきているであろう松林の想いは、私も共有できる。私の作った映画もきちっと評価されているとは思わない。でも、それが日本の現実だからね》とエールを送っていた。 松林監督に取材していて「商業的なドキュメンタリー作品の依頼がいくつかあったけど、みんな断りました。他の人でも撮れそうだなと思ったら断ります」という言葉が印象に残った。 一番影響を受けた人物を聞くと「中村哲」の名を挙げた。パキスタンとアフガニスタンで30年にわたり患者、貧者、弱者のための医療や開拓や生活向上の支援活動を続けてきた。2003年からアフガニスタンで日本の江戸時代の技術を生かした用水路を作ったことでも有名な人物だが、2019年12月に武装組織に銃撃を受けて、惜しくも亡くなった。
松林監督は「2004~5年頃、この人の仕事を映像に残したいと思って現地に行きましたが、すでに撮影している人たちがいたので、カメラは回さずに3カ月ぐらいただ話を聞いていました。その時、『誰もが行きたがらないところに行き、やりたがらないことをやる』という彼の哲学に感動しました。『一隅を照らす』とも。だから、それまで誰もやらなかったサントス事件をやろうとおもったんです」と撮影を始めた動機を説明した。 松林監督は、誰も行きたがらなかったブラジルにきて、誰もやりたがらなかったサントス事件を取材し、現地の人たちの心を大きく揺さぶった。このスタイルが彼らしいのだ。(深)