ブラジル男子柔道の五輪銅メダル 監督務めた日本人女性の「常識を壊した歩み」
東京五輪の柔道で、日本は男女合わせて9個の金メダルを獲得した。一方、ブラジルの男子代表チームの監督として五輪に挑み、銅メダル獲得に導いた人もいる。藤井裕子さん(39)だ。日本人女性が海外の男子柔道代表チームを率いるという初のケース。藤井さんにとって今回の五輪はどんな大会だったのか、なぜ地球の裏側にある国の監督になったのか。話を聞いた。(ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
選手たちに敬意を表したい
「もう少しメダルは欲しかったです。ただ、五輪という場ですべてを出すのは神がかった何かが必要だったりするんです。選手たちが五輪に向けて頑張ってきた過程については敬意を表したいです」 今大会の結果について、藤井さんはそう振り返った。ブラジル男子柔道の戦績は66キロ級の銅メダル一つ。前回のリオ五輪と同じだった。66キロ級のダニエル・カルグニン選手は、準決勝で阿部一二三選手に敗れたのち、3位決定戦で勝利した。初出場でのメダル獲得だった。
「あの日、カルグニンの調子は良かったんです。彼の柔道は技の切れ味ではなく、泥臭くプレッシャーをかけていき、相手の失敗を促すというスタイル。阿部選手は初戦から割と苦労していたので、勝機はあると思っていました。ただ、阿部選手は独特のタイミングで技を入れてくるのですが、カルグニンはその対策をせず、自分の柔道で向かい、相手にはまってしまいました。あの日の実力だったと認めますが、カルグニン自身は納得していないと思います」
自身と選手5人がコロナ感染
2020東京五輪は新型コロナウイルスの影響で無観客での開催となった。ブラジルでは2021年8月12日現在、累計で2000万人以上が感染し、56万人以上が亡くなっている。男子柔道チームも五輪開幕までに選手7人中5人が感染した。 藤井さんも今年の5月下旬に遠征先からブラジルに帰国した際に検査したところ感染が判明。遠征先で感染したものだと思われた。自主隔離を余儀なくされ、6月6日からハンガリーで行われた世界選手権には出発を遅らせて、なんとか参加できたという。 ただ、ブラジルは感染者数が世界3位で、感染しても仕方がないという考えもあり、悲壮な雰囲気ではなかったと藤井さんは言う。 「それより厳しかったのは、海外で十分な試合や練習ができなくなったことです。今春、なんとかジョージアに遠征試合に行ったのですが、ジョージアの選手に感染者が出て、ブラジルの選手にもうつってしまった。その次の遠征先がトルコだったんですが、トルコではチーム全員が隔離させられ、PCR検査で陰性でもホテルで2人ずつ軟禁状態。選手の何人かはそれがトラウマになってしまい、『もう海外遠征には行きたくない』と言いました。本当に大変でした」