ブラジル男子柔道の五輪銅メダル 監督務めた日本人女性の「常識を壊した歩み」
その約1年後の2009年、ルーとブリッジが2012年のロンドン五輪を見据えたナショナルチームの男女代表の監督にそれぞれ就任する。すると翌年、「ユウコは基本的な部分の指導ができるし、選手からの評判もいい」とイギリス女子代表のコーチに招かれたのである。 そして迎えたロンドン五輪。イギリス女子は78キロ級で銀メダル、78キロ超級で銅メダルを獲得した。メダル獲得は12年ぶりだった。ロンドン五輪後、藤井さんは次の2016リオ五輪の開催国であるブラジルからオファーを受けた。
指導力を評価されブラジルに
声をかけたのは、同国男子監督(当時)のルイス篠原準一氏だった。日系人の彼は、イギリスに見学に訪れた際、基本を大事に指導している藤井さんを見ていた。 「篠原さんがイギリスに来ていたとき、私は『相手の技を受けたときにどうよけるのか、投げられないようにするためにどういう体の使い方をするのか』という指導をしていました。力のある選手は力で止めようとします。でも、技がしっかり入ってしまっているときは、力を入れれば入れるほど、大木のように投げられてしまう。それに対して、どうやって地面に根を生やしたように体を重くするか。簡単な動きからちょっとずつ複雑にしていって最終形にする指導を、篠原さんは珍しいと思われたようです」
篠原氏はブラジル柔道から基本が失われつつあることを懸念していた。じつは、藤井さんもかねて彼の存在は知っており、いつかは勉強させてもらいたいという思いももっていた。2013年5月、藤井さんはブラジル女子代表のコーチに就任した。 ブラジルで指導してみると、現地の柔道熱が確かなものだと気づいた。ブラジルは柔道人口が200万人という柔道大国。現在60代の篠原氏も道場をやっていた父から教わっており、古きよき日本の柔道を知っていた。藤井さんは基本を重視した指導を徹底することにした。 そして、2016リオ五輪。ブラジル女子代表は57キロ級でラファエラ・シルバ選手が金メダルを獲得した。この結果を受けて、藤井さんは、今度は男子代表監督のオファーを受ける。「最初のころは『海外の人間』と見られていたけれども、ブラジル柔道に貢献できるコーチであることを示してくれた。今度は女性という色眼鏡に対してパラダイムを打ち破ってくれ」と言われたという。だが、藤井さんにはやや違和感があった。