パリから発信する日本の着物文化:Comptoir de Kimonoの挑戦
着物は非常に特殊な文化です。海外の方が英語で情報を探そうとしても、十分な情報を得られないことが多いのが実情です。そのようなとき、着物をよく理解している日本人として、通訳あるいは文化の橋渡し役となれることが私たちの強みだと考えています。 この店は、着物や日本文化に関心を持つ多様な方々が集う場所として機能しています。課題は山積していますが、私たちは着物文化を世界に広めるための重要な拠点としての役割を果たしつつあると自負しています。 店名の「Comptoir de Kimono(着物のカウンター)」が示すように、当店はさまざまな背景を持つ人々が着物文化と出会い、交流する場となっています。ここでは、着物に関する知識の共有だけでなく、文化的な対話や相互理解が生まれる空間を提供しています。
文化の交差点:ギャラリーの役目
ー店内にはギャラリースペースも設置されています。今後のComptoir de Kimonoの目指すビジョンにも、このスペースは大きく関わってくるといいます。 このギャラリーは、私が支援したい職人さんや企業の方たちに適切に利用していただけるようにしています。展示する作品は多様で、パリの老舗メゾンや、フランスで着物に関連する作家もいます。
たとえば、私が持ちかけて実現したプロジェクトで、フランスの老舗扇メゾン「デュヴェルロワ」が丹後ちりめん発祥300周年を記念して、丹後織物工業組合の6社の生地を使用した特別な扇6点を製作し、当ギャラリーで展示しました。
螺鈿や植物を織り込んだ布を用いた扇は、訪れる人々に「旅をするような感覚」をもたらし、丹後の職人技とデュヴェルロワの卓越した技法が織りなす作品に多くの来場者が感嘆の声を寄せました。 また、セネガル人男性がフランスで立ち上げたブランドの展示販売会を開催しました。日本文化からインスピレーションを得たこのブランドは、文化の融合を体現しています。 手仕事には、文化を超えて共通するものがあります。私は日本人として着物文化を広めたいという思いで活動していますが、それだけでは広がりに限界があります。セネガル人の彼の展示会では、普段とは異なる客層が来店しました。彼らはセネガルの手織りの生地と和装からインスパイアされた独特なカットに惹かれて来店し、他の着物にも興味を示してくれたのです。 このように、少しずつ領域を拡大し、さまざまな人々を巻き込んでいかなければ、着物愛好者は増えないと感じています。もちろん、もともと日本や着物が好きな人も多数いますが、それ以外の層にも着物の魅力を伝えていく必要があります。
ほかにも、フランス人落語家を招いて公演を行いました。その際に訪れた観客のうちの何人かが能の勉強をしていました。彼らにとっては、落語も能も演劇の技法のひとつであり、シェイクスピアと同様に捉えているのです。これは日本人にない視点で、新鮮な驚きがありました。 このような交流を通じて、日本人が知らない視点に触れられることも、この店の魅力のひとつです。異なる文化背景を持つ人々が、着物を通じて新たな発見をし、互いの文化への理解を深めていく。そのような文化交流の場として、今後も活動を続けていきたいと考えています。