パリから発信する日本の着物文化:Comptoir de Kimonoの挑戦
その後、ファッション業界のエグゼクティブを育成するIFM(Institut Français de la Mode)のExcecutive MBAプログラムに参加。ここでの学びや人脈が、後の事業立ち上げに大きく役立ちました。
最終的に、パリ市が運営する市営店舗を見つけ、約1,000万円の資金で着物の販売、レンタル、ギャラリー、サロンスペースを併設した店舗をオープンすることができました。この過程は決して容易ではありませんでしたが、Excecutive MBAでの経験が生かされ、夢を実現することができました。 開店後はコロナ禍に見舞われ大変な時期もありましたが、この濃密な経験を経て、現在の事業に至っています。
ー着物という伝統的な日本の衣装を、パリの方々にどのように伝えているのでしょうか? お客様の中には、普段着として購入する人もいれば、着物をアートとして求める人も一定数います。それぞれの予算や用途に応じて、浴衣や着物をお勧めし、必要であれば長さの調整も行っています。 男性用の着物は、ジャケットやコートのように着用する人もいます。女性用の着物は、カジュアルからフォーマルまで幅広く、正式な着物として着用したい人も多いです。お茶や弓道を嗜む方など、特定の目的で着物を求める人たちの拠り所にもなっています。
着物文化の継承には、単に着物を販売するだけでなく、着付けや作法など、細やかな知識の伝達も重要です。着物自体は古着店などでも見つかりますが、お茶会での色や柄の選び方など、詳細な作法を説明できる人は少ないのが現状です。 そのため、小物類の取り扱いや着付けの方法など、実践的なアドバイスも提供しています。プロフェッショナル、たとえば映画やCMの制作者からの相談にも応じ、特定のテーマや人物に合わせた着物選びのアドバイスも行っています。
ー文化を伝えるにあたり、課題は多いかと思います。 着物文化は日本国内だけでなく、海外でも注目を集めています。その楽しみ方は人それぞれで、特にフランスでは独特の受け止め方があるようです。 着物の柄や季節感に関する文化的な「ルール」も外国人のお客様にとっては理解が難しい点でした。たとえば、鶴の柄は礼装用で浴衣には適さないことや、浴衣は夏物なので桜の柄のものはないことなど、外国人が想像する「着物」のイメージと実際の着物文化には大きなギャップがあります。 さらに、「着物」という言葉自体にも誤解があります。フランス語で「着物(kimono)」は柔道着を指すこともあるため、柔道着を探しに来るお客様もいます(笑)。 外国人のお客様からよく受ける質問には、「着物は外でも着て大丈夫ですか?」「男性も着物を着てもいいのですか?」などがあります。これらの質問に対しては、「着物」が日本語では元々「服」を意味することを説明し、ユーモアを交えて対応していますね。 このように、日本人が当たり前に思っている着物の文化や知識と、外国人の持つイメージや理解度には大きな差があります。その差を埋めながら、着物の魅力を伝えていくことが、パリでの着物店経営の醍醐味であり、課題でもあります。