菅田将暉が感じた宮藤官九郎の笑いと岸善幸の笑いの「違い」
宮藤さんの台本はセリフがなくても確実に生きている
宮藤さんとは今回が初めての仕事となった。 菅田「演出を実際受けてみないと“初仕事”という感じではないのかもしれませんが、台詞が言いやすかったです。たとえば、大勢で同じ場所で喋ってるシーンがいくつかあるんですけど、すごく『宮藤さんだな』と思ったんです。その理由は、“全員が暇じゃない”からなんですよ。セリフだけでト書きでその人の行動は書かれてないんですけど、その人の動きとかポジショニングが全て見える構成というか……。つまり、『この人にこれを言わせたい』というような“都合”があまり見えない。みんなが勝手に生きて、喋ってるとこうなってるように感じるわけです。 台本でこれは“普通”ではないです。喋ってる間どうしよう、みたいなことはどうしてもあるんですよ。じゃあちょっとこう動きますねとか、これやってよ、というやりとりもあります。でもそういうのが全くなくて。どういうロジックで考えているのか、会話を組み立てているのか、わからないんですけど。演じてみるとすごくわかるんですよね。 演劇的というか、“誰も無視されてない”んです」 宮藤さんはもちろん『大人計画』はじめ舞台を作ってきた人。確かに、全員が普通に「生きて」いれば、そこに音声として収録される「セリフ」はなくても、何かをしていることが普通だ。セリフだけの台本でト書きなしにそれを感じたという。 菅田「いまこの取材の場所でも、座っていて話を聞いてたり、メールをしたり、いろんな人にその時の挙動がありますよね。宮藤さんの脚本からはそういうことを感じて、『すげー』って思いました。だから俳優は楽しいはずですね。なんか今日セリフないや~とかじゃない。やる気がちゃんとでるというか、やることがあるから」
泣き笑いが岸さんで、笑い泣きが宮藤さん
菅田さんは宮藤さんをこう語るが、話を聞く側は思う。その宮藤さんのすごさを、こうしてわかりやすく言葉にできる菅田さんもすごいなと。さらに菅田さんは「泣き笑いが岸さんだったら、宮藤さんは笑い泣きだ」と語っていた。それはどういう意味なのだろうか。 菅田「まんまですけどね。岸さんと宮藤さんは、人間の情緒を描くときにベースとなっているのが真逆に思うんです。岸さんは涙で、宮藤さんは笑いから入ってるイメージ。涙の中でも笑えるというエモーションが岸さんぽいなとも思います。この映画で言えば、最後の芋煮会のシーンなどはそうですよね。宮藤さんの場合、笑いからスタートして、ちょっとシャイな感じが宮藤さんぽいな、と思いました。かっこよくいかない感じがなんかすごいいなと思いますね」 この映画のキャッチフレーズは「笑って泣ける移住エンターテインメント」。実際試写室は冒頭から笑い声で包まれていた。筆者も冒頭からガハハと笑い、気づいたら泣いていた。確かに「笑い泣き」の映画だ。 菅田「自分が出ているコメディ映画だと構えるところもありますが、笑いましたね。とくに“祈る会”のピストルさんたちの感じとか。笑い泣き、しましたか。宮藤さんの術中ですね」 ◇インタビュー後編「菅田将暉が三宅健、竹原ピストル、山本浩司、好井まさおの「4人組」に感じたこと」では、2017年からの岸監督とのつながりや、キャストのメンバーに感じたことをお伝えする。 菅田将暉(1993年、大阪府出身) 主な作品:『共喰い』(13)、『溺れるナイフ』(16)、『あゝ、荒野』(17)、『糸』(20)、『花束みたいな恋をした』(21)、『銀河鉄道の父』『君たちはどう生きるか』『ミステリと言う勿れ』(23)、『Cloud クラウド』(24)など。 『サンセット・サンライズ』 新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、4LDK・家賃6万円の神物件に一目惚れ。何より海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごすが、東京から来た〈よそ者〉の晋作に、町の人たちは気が気でない。一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流にとまどいながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの人生が待っていた―?! 構成・文/FRaUweb 新町真弓
FRaU編集部