菅田将暉が感じた宮藤官九郎の笑いと岸善幸の笑いの「違い」
「まれに、覚えたセリフを言っているふうには見えない俳優さんがいる。そのことができる数少ない俳優さんの1人だと思う」 【写真】菅田将暉さんの表紙、映画で思わず爆笑シーンなど連続で見る これは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で菅田将暉さんを源義経役に指名した三谷幸喜さんが「日曜日の初耳学」で菅田さんを表現した言葉だ。 三谷さんだけではない。『共喰い』で青山真治監督と、『あゝ、荒野』では岸善幸監督と、『花束みたいな恋をした』では脚本の坂元裕二さんと土井裕泰監督と、『アルキメデスの大戦』では山崎貴監督と、『糸』では瀬々敬久監督と、『君たちはどう生きるか』では宮崎駿監督(さきは本来たつさき)と、『Cloud クラウド』では黒沢清監督と……。菅田さんがクリエイターたちと響き合いながら生み出してきた作品たちは、私たちの感情を大きく揺さぶってきた。 そして今回岸監督と再度タッグを組むのが、1月17日に公開される菅田さんの主演映画『サンセット・サンライズ』だ。これは宮城県・南三陸を舞台とした「泣き笑い移住エンターテインメント」。岸善幸監督と、今回菅田さんが初めての仕事となるという宮藤官九郎さん脚本により、楡周平さんの原作小説を映画化した話題作だ。 菅田さんは釣りをこよなく愛し、南三陸に移住する西尾晋作を演じるにあたり、自らも釣りにはまったという。「FRaU1月号」の表紙と10ページの特集の撮影と共に行われたインタビューは、誌面に掲載しきれない濃厚なものとなった。 Webで伝える第1回は、クリエイターたちとの関係を聞いていく。
「普通」の男性のすごさ
菅田さんが今回演じた西尾晋作はいわゆる“普通”の男性なのだという。舞台はコロナ禍の南三陸だ。 菅田「ただ釣りが好きで、行動力があるんですよね。ものすごいフットワークと。コロナ禍になりました、リモートで仕事できるならじゃあもう南三陸行っちゃえ!釣りしよう!そのまま内見いいですか?来ちゃいました!みたいな(笑)。下手したらあそこで映画終わりですからね。だからその行動力はまずひとつすごいなと思います。 そこから2週間の隔離されるわけですが、晋作は結局我慢できず、釣りに行き、いろんな人と交流してしまって、そのせいで色々なことが……、となる。邪気はないから好かれるんだけど、結構マイペースというか身勝手というか。それを客観的にみるとエリート社員というのもなんかちょっと理解ができるんです。この行動力と大胆さと集中力は、多分面接とかで通ったんだろうなって。 ただの設定上のサプライズではなく、なんでこいつこんないい会社勤められているんだろうと思うと、やっぱ合理的なんですよ。その後のDIYの作業とか、空き家のことも、能動的ではなくても、言われたらちゃんとやるし。あと絵を描いたり、じーっと何かを1個やるっていうのが好きなんでしょうね。そこは結構共感もできました」 そんな“普通”の晋作が主人公なのはなぜだろうか。 菅田「昨日、宮藤官九郎さんと監督と一緒に取材を受けていたんです。官九郎さんの一言でなるほどなと思ったのが、『晋作って主人公として何がすごいんだろう』って考えていたと。そうしたら『何もない、でも何もないのがいいな』とおっしゃったんですよね。震災後、被災地に対して何もなく来るやつなんていなかったと。 もちろん誰が来てもありがたいけれど、支援してくれたりボランティアだったり、心配してくれたり、家族に会いにきたり、みんな“用事”がある。でも晋作は“用事がない”んですよ。釣りがしたいだけで。そして目の前に出されたものをただおいしいおいしいって食べるだけ。それが多分いいんだろうね、って。そんなやついなかったって。その言葉を聞いて、ああ、確かになと思いました。変に意味がないことのよさというか。ただこの場所が好きで居るということが、どんだけありがたいことか」