末期がんで寝込む妻に離婚迫るモラハラ夫…「妻ががんになったら離婚する」という男性たち
●「末期がん」は離婚事由になるか?
では、離婚の合意がない場合はどうなるのでしょうか。 「夫婦の片方が離婚に応じない場合、通常は、(1)裁判外での協議、(2)裁判所での調停を経た上で、(3)裁判所での裁判(離婚訴訟)で離婚についての認容判決を得ることが必要があり、その際にいわゆる『離婚事由』(民法770条1項)の存在が必要となってきます。 『離婚事由』には、(1)配偶者に不貞な行為があったとき、(2)配偶者から悪意で遺棄されたとき、(3)配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、(4)その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときがあります。 本件では、妻が末期がんであることが『その他婚姻を継続し難い重大な事由』にあたるか否かの問題になり得ます。 この点、裁判所は、その判断にあたり、婚姻中における両当事者の行為や態度、婚姻継続の意思の有無、子の有無、子の状態、双方の年齢、健康状態、性格、経歴、職業、資産収入等、当該婚姻関係に表れた一切の事情を考慮することになりますが、離婚を請求される側となる妻が末期がんであることをもって裁判所が『その他婚姻を継続し難い重大な事由』があると判断することはまずないと言え、夫からの離婚請求は認められることは難しいでしょう」
●離婚事由「回復の見込みがない精神疾患」は民法改正で削除
そもそも、病気が離婚事由になるようなケースはあるのでしょうか。 「離婚を請求される側の病気という事情によって離婚事由が認められて離婚も認められるということはまずないでしょう。 この点、本件のようながんではなく身体的な疾患ではなく、精神疾患にはなりますが従前離婚事由として規定されていた「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(民法770条1項4号)は、今年5月に公布された民法改正で削除され、2年以内に施行予定となっています。 このような法改正があったという時流や、そもそも、夫婦には相手が病気になったら看病するなどお互いに協力し合う義務(協力義務。民法752条)があることから致しますと、他の特殊な事情でもない限り、相手方の病気が離婚事由として認められるということはまずないと言えるでしょう」