スズキとも資本提携 見えてきた「トヨタ・アライアンス」の未来形
EV規格の統一化と各社の独自性を両立
さて、そうやって「競争と協調」を続けるのはもちろんのこと、未来形の具体的な形についての定義も進んでいる。当然そこで重視されるのは「電動化」と「CASE」(Connected:つながる、Autonomous:自律走行、Shared:共有、Electric:電動)だ。 例えば電動化についても、実質同じクルマに各社のバッチをつけた金太郎飴で通用するような時代ではない。しかし、せっかくのアライアンスがありながら分断された状態で各社がバラバラに開発していては、人も資本もいくらあっても足りない。リソースに制約されて開発が遅れる。 そこで基本的な部分については規格化して共同開発し、そうやってできたコア技術を各社が製品にまとめていく手法が取られる。 その象徴的な形が、トヨタ・アライアンスを中心として設立された株式会社「EV C.A. Spirit」(EVCAS=イーブイキャス)だ。同アライアンスの5社にデンソーと日野、ヤマハ、いすゞを加えた9社によって構成され、その目的は、EV(電気自動車)の規格制定にある。 まずは汎用の角形バッテリーを規格化し、これとコントロールユニット、モーターの間でのさまざまな約束事を作る。例えば最大許容電圧をどうするか、各制御のための情報の規格化をどうするかなど、システムのルールを決める。 その規準に合致する部品、それがたとえバッテリーであろうが、モーターであろうが、どこのサプライヤーに作らせるかは各社の自由。ただし、この規格にさえ合わせてあれば、どのコンポーネントを組み合わせても作動する。2000年代を通して、エンジン開発で欧州が先行していたこういう規格化をEVでいち早く実現しようとするものだ。
そして面白いのが、こうした規格化とはまた別に各社が独自の製品開発も並行して行っている点だ。例えば2018年10月にマツダは独自のEV開発計画を発表し、バッテリーEVだけではなく、ロータリーエンジンを使ったレンジエクステンダーや、シリーズハイブリッドなど、コンポーネント化された独自規格について説明した。これなどはローターリーというマツダならではの技術を軸に電動化の方向性を指し示したものだと言える。 このようにトヨタ・アライアンスだけでなく、傘下の各社もまたそれぞれの内部で「競争と協調」を推し進めて行く。それはより一層の大競争時代に臨む自動車メーカー各社の覚悟の表れでもある。まさに今「競争と協調の時代」が始まろうとしている。 --------------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある