スズキとも資本提携 見えてきた「トヨタ・アライアンス」の未来形
アライアンス内で市場の食い合い?
さて、ではそれぞれの提携によってどんな効果を得ようとしているのかについて、考えていこう。 最初に理解しておくべきなのは、トヨタはアライアンスのカバー領域の全てにもともと駒を持っている。極論を言えば、トヨタだけでも全方位をカバーしている。ただし、ジャンルごとに強弱があり、提携先にアドバンテージがある部分が存在している。 トヨタとしてはアライアンス先の力を借りたいが、普通に考えれば、重複する自社部門をどうするかが問われる。トヨタが面白いのは、そこで重複が出ること、もっと言えば市場の食い合いが生じることをあまり苦にしないことだ。それは世界でトヨタだけの特異点でもある。
分かりやすい例を挙げよう。ダイハツは7月9日に新型タントを発売した。タントは「DNGA」(Daihatsu New Global Architecture)の第一弾であり、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心とした新興国向け新世代小型車の頭出しである。 DNGAはトヨタの「TNGA」(Toyota New Global Architecture)と同様に、企業丸ごとの強靭化計画であり、設計や生産のみならず、部品調達や人材教育まで、ダイハツの企業経営全体を強化する新しい経営思想だ。プラットフォームを含むコモンアーキテクチャーは、あくまでも形として見える部分集合に過ぎない。ちなみにコモンアーキテクチャーとは、従来のような物理的な部品共通化ではなく、「設計手法と生産手法を共通化する」ことが特徴だ。大事なのは寸法や形状の同一性ではなく、設計や生産設備に投じたコストに対して、サイズや使用環境に応じてより幅広い製品を生み出すことだ。 つまりTNGAとDNGAは実質同じものであり、ダイハツが作るA、Bセグメントと、トヨタのコンパクトカー・カンパニーが作るクルマは基本的な設計思想と概念は共通だ。しかしながら、それぞれが狙うマーケットは異なる。 すでに述べた通り、ダイハツはASEANを中心とした新興国を受け持つので、軽自動車の技術をベースに、コモンアーキテクチャーで拡大幅を持たせて作るコスト優先の小型車。一方でトヨタが受け持つのは、欧州などの先進国マーケットでの小型車需要を狙うクオリティ優先の小型車となる。 狙うマーケットが異なるとはいえ、そこはほぼ同サイズの商品、マーケットによっては食い合いが起こるだろう。おそらくそれに対して、トヨタは「両方残れば良し、ダメなら弱い方が淘汰されるだけ」と考えている節がある。 商品の住み分けについて、あまり丁寧に交通整理をしていると、どちらもベストな製品を最速で作って行くことができなくなる。だから原則論の範囲で住み分けができているなら、現実はやりながら考えると言う方向なのだ。そうやってアライアンスの中で、時に味方となりライバルとなり、切磋琢磨していくことをして「競争と協調」とトヨタは言う。 そして、ここにスズキも加わることになる。スズキの場合「SNGA」が用意されるわけではなく、スズキ独自のクルマ作りを行っていくわけだが、仮にもしスズキの方がSNGAを欲するならば、トヨタはある程度そのノウハウを提供するだろう。