「都心回帰」が相次ぐ大学 東洋大は志願者10万人突破 キャンパス移転の価値とは?
先駆者・東洋大は矢継ぎ早に移転
近年の大学移転ラッシュの流れに先鞭をつけたのが、東洋大学です。05年、朝霞キャンパス(埼玉県朝霞市)で行っていた文系5学部の1~2年次の授業を、3~4年次と同じ都心の白山キャンパス(東京都文京区)へ集約し、4年間の一貫教育を実現しました。 06~07年度には、共立女子大学が八王子キャンパス(八王子市)と神田一ツ橋キャンパス(東京都千代田区)に分かれていたキャンパス機能を神田一ツ橋に集約。13年には、青山学院大学が文系7学部の1~2年次の授業を相模原キャンパス(神奈川県相模原市)から青山キャンパス(東京都渋谷区)に移し、4年間一貫教育に乗り出しました。こうした動きが成功例として世間に認知されたこともあり、その後、利便性の良い土地への移転に乗り出す大学が続出するようになったと考えられます。 ちなみに、東洋大学はその後も学部の移転や改編などを続け、17年には赤羽台キャンパス(東京都北区)を開設して情報連携学部を新設。24年4月にも、生命科学部と食環境科学部を板倉キャンパス(群馬県板倉町)から朝霞キャンパスへ移転するなど、矢継ぎ早に改革を続けています。 「東洋大学は24年の入試で、志願者数が4年ぶりに10万人を突破するなど好調です。キャンパスの移転や新設、それに伴う学部の新設などのさまざまな改革を続けてきたことがこうした結果につながっていると思われます」(井沢部長)
学びのスタイルにも注目
交通の便の良い土地に移転する大学が増えるなか、単に都市部に移っただけでは、志願者集めの競争に勝ち抜くことは難しくなってきています。 「コロナ禍で急速に大学のオンライン化が進んだこともあり、自宅からリモートで授業が受けられるのならば、大学に行くことに何の意味があるのか、と感じた学生も多かったと思われます。学生にわざわざ足を運ばせるようなキャンパス自体の魅力や価値が問われるようになってきていて、各校ともキャンパス移転と併せた学びの環境整備に力を入れています」(小林所長) 例えば、立命館大学では24年4月、衣笠キャンパス(京都市北区)から映像学部が、びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市)から情報理工学部が、それぞれ大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)へ移転しました。 これまで大阪いばらきキャンパスには社会科学系の学部が集まっていましたが、これに理系、芸術系を加えた6学部7研究科が集まって総合的な学びの場となり、地域や社会とも連携していく「ソーシャルコネクティッド・キャンパス」を掲げています。 大阪いばらきキャンパスには新棟(H棟)が完成し、対面とオンライン双方向の学びができる大教室やVR(仮想現実)などの先端技術に特化したラボスペース、産学官との連携スペースなどを備え、学びを支える新たな価値を提供しています。 移転に伴い新設されたキャンパスには、こうした設備面や「地域に開かれたキャンパス」といった魅力があるのは間違いないでしょう。一方で井沢部長は、そこで行われる「学びのスタイル」にも注目すべきだとして、次のように語ります。 「近年は大学での学び方が大きく変わってきていて、従来のように大教室で講義を聴くだけでなく、学生が5人程度の小グループに分かれ、実社会の課題について主体的に議論しながら答えを考えていく『PBL(課題解決型学習)』などの手法が取り入れられることが増えました。図書館などで自習やグループ学習ができる『ラーニング・コモンズ』の空間も重視されています。志望校選びの際には、移転の有無にかかわらず、こうした現代的な学びのスタイルを取り入れているか、最新の学習環境がどの程度整っているかなども調べてみるといいでしょう」
朝日新聞Thinkキャンパス