選挙を拒否する反政府デモ タイ政治の構造的問題
「千日手」のタイ政治
インラック首相は今回の一連のデモを受け、下院の解散と来年2月の総選挙を確約した。だが、反政府側は今月21日に総選挙のボイコットを表明するなど、インラック首相の申し入れを受け入れる様子は見られない。 甲斐教授は、インラック首相に手詰まり感があると指摘する。「問題は二月の選挙が実施できるかということだ。タクシン派が勝利した2006年の総選挙で、野党側は欠席戦術に出た。あろうことか憲法裁判所はそれに対し、『野党が参加しない選挙は無効』という判決を出した。今回も野党側は選挙のボイコットを表明している。2006年のような事態になる可能性がないとはいえない」。 タイの司法は必ずしも中立ではない。選挙に際し、2006年のように黄シャツ側におもねる判決を出す可能性もある。しかし、黄シャツ側にしてみても、手詰まり感は変わらない。選挙が実施された場合、負けは確実だからだ。 「タクシン派」が政権をとれば、「黄シャツ」がデモをおこす。「反タクシン派」が政権をとれば、「赤シャツ」が座り込みを始める。タイで2006年以降繰り返されてきたこの状況を、甲斐教授は「千日手のタイ政治」と形容する。「千日手」とは将棋の用語で、お互いが同じ手を繰りかえし、局面が進展しないことをさす。
国王の演説でも収束せず
タイはクーデタの多い国だ。1932年の立憲革命から1992年の民主化に至るまで、約3年に一度のペースで繰り返されてきた。しかし、それでも「無政府状態」にならなかったのは、国王の存在があったからだというのが甲斐教授の見方だ。 「タイは立憲君主国なので国王は政治的に中立だ。しかし、クーデタなどで三権が機能しなくなった場合、国王が政治に関与することが憲法的にも認められると考えられている。これまでのクーデタでは最終的に国王が認めた方が勝ちになり、負けた方は無事に国を出て行くという原則があった。タイの政治にとって、国王は最後の安全弁だった」。 プミポン国王は今回のデモに際しても、誕生日である12月5日の演説で国民に「団結」を呼びかけた。しかし、反政府側は6日からデモを再開した。慈善活動にも意欲的に取り組み、国民から愛されるプミポン国王。その現国王をもってしても、92年のようにデモを収束させることはできなかった。