【光浦靖子】芸能界を休むことへの不安は? 50歳で飛び込んだカナダ留学という新しい世界、その奮闘の毎日を綴ったエッセイ本〈インタビュー〉
表紙撮影で出会った女性の生き方
――それは表紙の写真の表情の柔らかさにも表れていますよね。カナダでの暮らしの空気感が伝わってくるとても素敵な写真です。 光浦:カナダの友達が撮ってくれました。本にも書いていますが、友人でもある作家の西加奈子さんがバンクーバーに住んでいたので、私を日本人ママ友会「オバンジャーズ」に入れてくれたんです。その一人がカメラマンで。 ――裏表紙で光浦さんと一緒に写っている年配の外国人女性もご友人ですか? 光浦:ダコタという女性で、この表紙の撮影をきっかけにお友達になりました。というのは、私たちがロケ地で選んだカフェの前がこの方のアパートメントで、偶然、その階段に犬と一緒に座って本を読んでいたんです。その姿があまりに素敵で、撮影させてほしいと声をかけました。快く「いいよ」と言ってくれて、そこからいろんな話をしたんです。訊けば、ダコタは若い時にほんの短い期間だけど、日本で英語の先生をやったことがあって、ダコタ自身も作家で本を出したことがあるそうです。しかもその時読んでいたのが村上春樹さんの本だった。彼女は画家でもあるのですが、会ったばかりの私たちを家の中に入れてくれて、絵も見せてくれました。彼女の部屋がまたとても素敵なんですよ。家で使っているのはすべて和食器で、好きなものを選び抜いて、古いものを慈しむようにして使っている。大好きなイヤリングももう何十年も使って少し飽きてきたからと、自分でリメイクして新たなイヤリングを作ったり。そういう生き方が、彼女自身の雰囲気にも表れているんですよね。 ――この本の表紙にはそんなエピソードがあったんですね。 光浦:ダコタの家には、2週間に1回、近くに暮らすダコタのお友達が集まって、お茶をしながら、社会情勢を話したり、みんなが平和になるといいねとか、ただただおしゃべりをするだけの会があるんですが、私も今、それに入れてもらっているんです。みんなとてもおおらかで、メンタルの成熟度が高い人たちばかり。そのうちの一人は、バンクーバーに今増えているホームレスの薬物依存症の人たちをサポートするボランティアをやっていたり。困っている近所の移民の人らを助けたり。「人のために」という生き方がごくごく自然。ダコタやそこで知り合った先輩たちの生き方に触れて、憧れの人ができた感じです。 ――今のエピソードを伺ってもそうですが、本に書かれているカナダで出会った人たちとの関わりを通して光浦さんが感じたことや、ご自身の変化をエッセイにして伝えてくれることは、読み手にも気づきを与えてくれるような気がします。本には、「ポジティブな感情」を表すことへのご自身の変化も書いていらっしゃいますね。 光浦:ポジティブな感情や喜びは照れずに表現した方がいい。それはカナダに住んで自分が変わったことのひとつです。人を褒めるって、言ったら言っただけ得しかないんだなと思います。というのは、普通に道を歩いていても、「素敵なスカートね」とか気軽に声かけられるんですよ。いいなと思ったことを口に出して言われて、嫌な気持ちなんてしないですからね。「嘘つけ!」なんて思ったことないわけですよ。こんなにいい気分になるなら、なんでもかんでも口に出せばよかったって後悔してます。10パーセントぐらい素敵だなと思ったら、もう言っちゃっていいんだなと。 ――それは嘘ではないですもんね。 光浦:いつも過半数行かないと口に出さなかったんですよ。でももっと褒めていい。で、もう全員がそれやり合ったらいいなと思います。
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