【能登二次災害】「市に連絡しても支援が来ない」なぜ起きた?ボランティア活動縮小の矢先に豪雨、NPOが現場で補完
■ 泥のかき出しにもボランティアの助けが必要 ところが、地震を乗り越えつつあると感じていた9カ月後の9月21日、豪雨が輪島市を襲った。事務所は1メートルほど浸水し、水がひいた後には10センチほどの泥が溜まっていた。 このままでは事務所を開設できないと考えた橋浦さんは当初、娘と一緒に泥のかき出しを始めたが一向に終わらない。泥を全てかき出しても、水気を吸った床下や壁の断熱材が腐食しカビが繁殖したり、シロアリが発生したりするリスクもある。放置しておくと事務所が使えなくなる可能性が高い。こうした事態を避けるためには、早期に断熱材を撤去し、しっかりと乾燥させることが必須になる。 ただ、専門の器具も知識もない橋浦さんでは床や壁を切り開き、断熱材を取り除くことはできない。「私たちだけではどうしようもない」と考えた橋浦さんは輪島市の社会福祉協議会を通してボランティアに支援を依頼した。ところが返事が遅い。市役所に勤める友人に相談すると、災害支援NPOの「ありんこ」という団体を教えてくれた。 ありんこは災害支援に特化したNPOで、被災地の教育支援や災害後の家屋の清掃作業に関する専門的なノウハウを有している。結局、橋浦さんは「友人も『直接NPOにお願いする方が早い』とのことだったので、ありんこさんにお願いした」という。
■ 「ボランティア縮小」というタイミングを豪雨が襲った 取材した10月5日、橋浦さんの事務所にありんこから5人ほどのボランティアが駆けつけ清掃作業が始まっていた。ありんこのボランティアは壁を切り出し、断熱材を取り出すほか、排水管に詰まっていた細かな泥土も掃除していた。 橋浦さんのケースから浮かび上がるのは、今回のような二次災害におけるボランティア体制整備の難しさだ。駒澤大学教授で災害コミュニケーションを専門とし、能登にも何度も足を運んでフィールド調査を進めている柴田邦臣氏は次のように解説する。 「今回のような輪島市のケースにおいて、被災者がボランティアに家屋の清掃を依頼する経路は2つある。一つは、輪島市の社会福祉協議会が主催する『輪島市災害たすけあいセンター(輪島市災害ボランティアセンター)』に依頼するもので、橋浦さんが待たされているルート。もう一つが、すでに地域での活動を通じて市の社会福祉協議会と連携しているNPOやNGOに直接依頼するルートだ」 「石川県は、ボランティア自身が被災するリスクや、限られた人手を効率よく現地に分配することを考え、ボランティアの派遣を県が一元管理する方針を打ち出している。輪島市災害ボランティアセンターは県に歩調を合わせ、直接ボランティアは募集していない」 だが、豪雨災害を受けて、橋浦さんのように現場の支援では被災者が直接、NPOに依頼することで生活の立て直しが進むケースも少なくないようだ。県が構築したボランティア体制は、どのような状況に陥っていたのだろうか。 「1つ目のルートでは、市民からの要請を受けた市の災害ボランティアセンターが現地の被害状況を確認し、県に連絡して、それを受けて県が必要な人員を派遣する、という流れになる。ところが地震による現場のボランティアニーズは落ち着いてきたという見方から9月ごろから段階的に、輪島市災害ボランティアセンターを縮小・閉鎖していこうという流れになっていた」(柴田氏) 柴田氏によると、石川県から派遣されるボランティアの数は豪雨が発生した当時、すでに減少傾向にあったという。豪雨災害が発生したのは、そうしたボランティア活動を縮小しようという矢先だった。 「豪雨被害が起き、市民からは再び、ボランティアの支援を求める声が急増した。ボランティアセンターを縮小・閉鎖する流れにあった市の社会福祉協議会は混乱状態に陥ったと思われる。支援を求める声に十分対応しきれないのは、無理もないだろう」(柴田氏)