「どこでも転勤」もう時代遅れ?◆高まる拒否感に企業も対応、背景に何が #令和に働く
会社の命令で仕事のために全国各地に転居する「転勤」。日本企業では一般的な制度ですが、実は就活生や社会人のそれぞれ半数が、転勤がある会社は避けたいと感じていることが民間調査で分かりました。背景には何があるのか。働く人の声や企業の取り組みから探りました。(時事ドットコム取材班 川村碧) 【調査結果】「転勤あり」の企業を避ける割合は? ◇転勤が企業選びを左右? 企業選びの真っただ中にいる就活生は転勤についてどう考えているのか。10月中旬、就活情報会社「マイナビ」が横浜市で開催した2026年卒向けの企業研究イベントに足を運んだ。 「転勤したくない」と首を振るのは鉄道会社志望の男子学生。「親が転勤族で、転校や父の単身赴任を経験した。将来結婚して子どもができた時のことを考えると、環境がころころ変わるのはかわいそうかな」と話す。メーカー志望の女子学生は「会社を決める上で、転勤があるかどうかは大切ですね。両親が高齢なので、手伝いや将来の介護を考えると転勤の多い会社は避けたい」と語った。 また、「自分で住むところを決めたい」「意向を聞かれずに急に転勤させられるのは理不尽」との意見もあったほか、同じ金融業界でも「転勤のある大手から地元の信用金庫に志望を変えた」と話す学生もいた。 ◇「抵抗ない」派の意見は 一方で、転勤を肯定的に受け止める声も聞かれた。映画業界などを目指す女子学生は「働く場所にこだわりはなく、やりたい仕事かどうかや給与面を重視している」と説明。商社に関心がある男子学生は「あまり抵抗はないです。新しい土地でいろいろな価値観を持つ人に出会えるのも魅力だし、成長できそう」と語った。取材に応じてくれた学生のうち、転勤否定派が8割、肯定派は2割だった。興味のある仕事かどうかに加え、今の学生の企業選びには転勤の有無が大きく関わっているようだ。 記者が会場を歩くと、ブースに「全国転勤なし」や「希望のない転勤なし」と大きく掲げている企業をいくつか見掛けた。住宅リフォーム会社の人事担当者は、「学生が転勤を意識していることは肌で感じる。希望に沿わない転勤はないことを丁寧に説明し、アピールしています」と話した。 ◇2人に1人が「転勤あり」を回避 パーソル総合研究所は24年2~3月、20~50代の正社員1800人と就活生175人に転勤に関する調査を行った。転勤がある会社への応募・入社を避けると答えた人の割合は、社会人(中途入社した場合を想定)では49.7%、就活生では50.8%となり、2人に1人は転勤のある会社を避けることが明らかになった。 正社員1800人に転勤にどんな不安があるかを複数回答で尋ねると、「希望しない場所への配属」が44.3%で最多。回答者の属性別に分析したところ、子どもがいない既婚者は「配偶者の仕事」、子を持つ人では「子どもの教育環境」を挙げる割合が高かった。 また、転勤がある企業に勤める総合職1240人のうち、「不本意な転勤を受け入れるくらいなら会社を辞める」と考えている人は4割弱に上った。特に、20代男性や20~40代の女性、そして自分を市場価値が高い人材だと認識している回答者の場合、そうした傾向が強かった。実際に離職した人の理由としては「希望と合わなかった」「手当などのメリットが不十分」「家族への気兼ね」などを挙げる人が多かった。 同社の砂川和泉研究員は「居住地や自分らしさ、家族との時間を重視する人は、不本意な転勤をするくらいなら退職を選ぶ傾向がある。企業は転勤制度を見直す必要を迫られている」と分析する。 ◇夫の転勤、キャリア・育児に悩む妻 突然の異動辞令は本人だけでなく、家族へも影響を及ぼす。営業職の夫と子ども2人と暮らす30代の女性会社員の家庭では10月、夫の転勤話が急きょ浮上した。女性は「6歳の子は今年小学生になったばかりで、3歳の子も保育園に通っている。友達がいる環境を変えるのはかわいそうだし、新しい土地で保育園や学童保育を探すのは大変」と不安になったという。 引っ越しとなれば数年前に購入したマンションをどうするかも悩みの種。女性と子どもが今の住居に留まり、夫が単身赴任する選択肢もあるが、そう簡単ではない。女性は今の職場で商品企画を9年担当しており、年に数回は海外出張をこなす。「ワンオペ育児になるなら出張がある今の部署から異動するしかないが、希望した仕事でこれまで経験を積み上げてきた。夫の転勤によって私自身のキャリアも宙に浮いてしまっている」と語る。 転勤制度への思いを尋ねると、「家庭の状況に応じて『転勤なし』を選べるようになってほしい。男性側に転勤が前提の働き方をされると、女性側があおりを受けることが多い。『女性はすぐ辞める』『もっと活躍してほしい』という圧力はあるのに、きちんとした制度がない」と訴えた。