「全身全霊で働くっておかしくないですか?」会社員が読書できるゆとりを持つためには――大事なのは、真面目に働く「フリをする」技術【三宅香帆×佐川恭一対談 後編】
ノイズがあるほうが絶対面白い
三宅 そうですよね。でも、好きな仕事でもメンタルを壊してまでやる仕事ってあるのか?とは思います。NHKスペシャルでサカナクションの山口一郎さんがうつ病になった様子を放送されていましたけど、やはり社会の仕組みとして防げる部分はなかったのか、と思ってしまう。 佐川 たしかに、僕らは小説が好きですけど、小説だけに全身全霊を捧げても同じ現象になりかねない。 ユイスマンスの『さかしま』って本があって、主人公の男がもうパリの下品さにうんざりして田舎に引っ越して、自分の大好きな絵画とか芸術作品だけに囲まれた人口楽園を作るんですよ。まさに三宅さんの書かれていた「片付け本」のロジックなんですけど、結局最後は病んで医者に「パリに帰れ」って言われちゃうんですよね(笑)。 だからやっぱり三宅さんの本にも書かれているとおり「ノイズ」を享受できる豊かさが大事なんだと思います。 三宅 仕事だけ、趣味だけ、になってしまうとノイズがなくなってしまいますしね。 佐川 読書ってやっぱりノイズの部分が面白いじゃないですか。ノイズの部分が真髄というか。今の文芸の世界にも言いたいですけどね。 三宅 たしかに、現代だと小説という場ですらノイズ除去の方向に向かっているかもしれない。 佐川 今は「この小説はこういう社会的な問題を扱った小説です」みたいにわかりやすく説明できる作品のほうが売れやすいし、文芸誌にも載りやすい。僕はちょっとそれが面白くないなと思っていて。 三宅 ノイズがあるほうが絶対面白いですよね。そういう意味では『サークルクラッシャー麻紀』みたいにノイズだらけの小説を、佐川さんは世に出してるじゃないですか。 佐川 あれはノイズだらけですね(笑)。まあでも、ノイズ除去の方向に向かっている世の中で、なんとかノイズを復活させていきたいですよね。 三宅 関西から復活させていきましょう、ノイズを。 佐川 「関西ノイズ」、やっていきましょう。いらんことばっかり書いて。 三宅 いいですね、関西ノイズ!やりましょう。 取材・文/集英社オンライン編集部
集英社オンライン編集部