「全身全霊で働くっておかしくないですか?」会社員が読書できるゆとりを持つためには――大事なのは、真面目に働く「フリをする」技術【三宅香帆×佐川恭一対談 後編】
意外と大事な「フリをする技術」
佐川 この本の結論には「半身で仕事をする」ことの重要性が書かれていると思うんですけど。僕もまさにその結論には賛成で。 全身全霊で仕事に落ち込んでたら、やっぱり頭がそればっかりになっちゃって、本を読む気力もなくなるっていう社会が本当に豊かか?っていう問題提起も込められている。 三宅さんの言うように、週三勤務も可能になったら、文化的なところにも頭のキャパシティを割けるようになる。 ただ一方で、僕らみたいに小説が好きでそれを副業にできる人はいいと思うんですけど、たとえば釣りが趣味の人とかだと稼げないし、収入面の不安も出てくる。企業が全身全霊で働くことを求めるっていうのが変わらない以上、なかなか現実的にもすぐに社会は変わらないわけですし。 三宅 それはそうですよね。 佐川 だから僕は現時点では、週5フルタイム勤務でも、本気で働いているように見せつつ全身全霊で働かないことがまずは大事かなと思いました。全身全霊で働いたら、定時帰りでもめっちゃ疲れるじゃないですか。 ほどほどにしておけば、本を読む時間も作れるし、小説や書評も書けるし。それで最終的には社会が週3勤務になってほしいと思っています。 三宅 間違いないですね。意外と「フリをする技術」って、社会人にとって大事じゃないですか? 佐川 そうですよね! 明らかにやる気がなくて干されるポジションにいつづけるのって、実はめっちゃ精神力がいるじゃないですか。 周りの目も気になるし、居場所もないし、鋼の精神を持たないとその境地には到達できない。だからみんなを不快に思わせないレベルで手を抜くのってめっちゃ大事ですよね。 三宅 仕事や就活に行き詰まるときって「フリしちゃだめなんじゃないか」って思っちゃうじゃないですか。全身全霊でやるか、まったくやらないかのどっちかの世界になっちゃうと、メンタル的にも病んでくる。 社会がすぐには週三勤務が変わらない以上、真面目に働くフリをしつつ精神的には半身を残しておくことが大事なんじゃないかと思っています。おかしなところにツッコミを入れる余力、自分の好きな活動に力を入れる余力を残しておくことが大事だと思いますね。 佐川 会社はやっぱり仕事を第一にさせたいじゃないですか。それが行きすぎると、宗教じみてくる場合もある。でも、そこには乗っかりすぎないほうが精神的にもいいんじゃないかなと思います。