金星探査機「あかつき」の観測成果 JAXA会見(全文2)熱潮汐波の構造を解明
熱潮汐波に着目するのはなぜか
さらに金星から見てこの温かい領域が常に同じ場所にあるわけではありません。これ、ちょっと簡単なアニメーションですけれども、明るい領域が昼間側と、暗い領域が夜側と思ってください。明るい領域がどんどん、お昼が太陽の動きと一緒に動いていくという絵をアニメーションで簡易的に示しているんですけれども、見ていただいて分かるとおり、どんどん太陽の当たる範囲というのが、太陽と一緒にぐるぐる回っていくわけですね。同じところに太陽が当たっているわけじゃなくて、太陽と一緒にもちろん温まる場所も変わっていきます。これも大気から見てみれば、太陽と一緒に温まる場所が変わっていくという少し、ある意味、不安定ではないですけれども、大気に対する影響が変わっていくと、そういう受け取り方になります。これが引き起こす現象が熱潮汐波と呼ばれるものです。 後ほどその熱潮汐波がどういったものかは、図としてお見せしたいと思いますが、この熱潮汐波が、ではなぜわれわれは着目しているかをご説明したいと思います。今回のお話ではゴールがスーパーローテーションということでしたが、実はこの熱潮汐波は金星においてこのスーパーローテーションの維持や、あるいはスーパーローテーションをつくるものとして有力視されています。そういった意味で、非常にわれわれはこの熱潮汐波に興味を持って研究を進めています。
太陽の動きはスーパーローテーションの方向の逆
先ほどお話ししたとおり、太陽の動きと一緒に雲が温まります。実はこの太陽の動きは、スーパーローテーションの方向と反対ということが分かっています。逆に言うとスーパーローテーションが太陽の動きと反対方向に吹いています。これは1つ説明として、太陽が雲を加熱して、加熱された雲が太陽の光を、加熱を原因として熱潮汐波を生み出します。この波は雲の場所にあるだけじゃなくて、上と下に染み出していくというんですかね、ずるずると飛び出していってしまうことが知られています。しかもこの飛び出していくときに、太陽の方向に向かうエネルギーを大気の、雲層じゃない大気に渡します。下向きに行くやつはやがて地面にまで達するんですけれども、太陽が引き起こした熱潮汐波が、雲の中で太陽向きのエネルギーを地面に渡す、あるいはもっと上の大気に渡す。結果、反作用として雲の高さの大気が太陽の動きと反対方向、つまりスーパーローテーションの方向に加速されていくと。地面を蹴って大気が加速すると、そういう描像、この熱潮汐波というものを介して、金星の中で起きているのではないかと考えられています。 実際に数値計算でこの様相が確認されていまして、雲層で大気の加熱を与えて熱潮汐波を起こしてみたところ、雲層で特に風速が速くなって、その他の領域ではちょっと遅いと。そうです、雲層で大気が加速されている様子が見えました。こういった意味で、熱潮汐波の重要性というのはミッションが始まる前から認識されておりました。なのでこの熱潮汐波について新たな知見を得たいというのは、「あかつき」ミッションとして当初より掲げていた目標でした。ただ、なかなかこの熱潮汐波の全体描像を得るのは時間が掛かって本日まで来てしまったというところもございます。