<わたしたちと音楽 Vol.43>モヒニ・デイ より強く、共感性を持った音楽家になる決意
米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。 今回のゲストは、8月に来日公演を控えるインド出身のべーシスト、モヒニ・デイ。9歳からキャリアをスタートすると、『スラムドッグ$ミリオネア』などで知られる映画音楽家A.R.ラフマーンの作品への参加し、その共作関係は8年半にも渡るものとなった。超絶テクニカルなプレイで、クインシー・ジョーンズ、スティーヴ・ヴァイ、B'z、ウィローなど、様々なアーティストとステージを共にしてきた彼女が、インドの音楽業界におけるジェンダー問題の現状や今後期待する変化について語ってくれた。
インドでは芸術と政治は切り離すべきという考え方が根強い
――まず幼い頃に尊敬していた女性について教えてください。 モヒニ・デイ:私が幼い頃にプロの歌手として活動していた母が、最初のロールモデルでした。キャロル・キング、キャロル・ケイ、ジョニ・ミッチェル、シーラ・Eなど、音楽界に多大な影響を与えた女性たちを尊敬しています。 もともとの夢はファッション・デザイナーになることでした。けれど私の本当の才能が音楽だと気づいた父が、私にベースを練習するように言ったんです。私たち家族にとって、常に唯一の選択肢だったのが音楽でした。現在は自分でほとんどのステージ衣装をデザインしていて、ファッション・デザイナーとしての子供の頃の夢と、プロ・ベーシストとしての父の夢を同時に実現できているので、人生は素晴らしいですね。 ――世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2024」によると、インドは146か国中129位、日本は118位でした。インドは欧米に比べて保守的だと思いますが、インド国外で演奏するようになって、ジェンダーにまつわる文化の違いに驚いたことはありますか? モヒニ:インドの外で演奏することで、ジェンダーに関するさまざまな文化の違いに触れることができました。多くの場合、欧米諸国では女性が音楽業界で活躍することについて理解があり、進歩的であることに気づきました。女性ミュージシャンを受け入れ、サポートする姿勢は新鮮でしたね。同時に、女性が伝統的な役割に従うことを期待されがちなインド文化の保守性も浮き彫りにしました。異なる文化が音楽におけるジェンダーの問題にどのように取り組んでいるのか、インドにおける変化の可能性を知ることは驚きで、やる気を起こさせるものでしたね。 とはいえ、私が現在のような高みに到達できたのは、進歩的な考えを持つ男性たちのおかげであり、そのほとんどはインド人男性だったという事実を強調したいと思います。どんな文化にも先進的な考えを持つ人はいます。難しいのは、そういった人々を見つけ出すこと。音楽家のランジット・バロットや私の父スジェイ・デイのような人たちは、インドの平均的な人たちよりも進んだ考え方を持っていたと自負しています。 ――このインタビュー・シリーズで日本の女性アーティストと話を訊く中で話題にあがるのが、ジェンダーを含む社会問題について発言することへのためらいです。これはインドでも同じですか? モヒニ:はい、インドでもよくあることです。女性を含む多くのアーティストが、反発を恐れて社会問題について発言することをためらっています。芸術と政治は切り離すべきだという考え方が根強く、それが重要な会話を妨げてしまっている。私はアートが変革のための強力な手段であると信じていますし、ジェンダーを含む社会問題に取り組み、挑戦するためにそれぞれのプラットフォームを使うべきだと思っています。私の願いは、政治指導者たちとの間に尊敬の念を生み、それを維持することで、文化に前向きな変化をもたらすことです。誰もが他の文化の長所を自分たちの“家庭”に持ち帰ることを志すべきだと思いますね。