<わたしたちと音楽 Vol.43>モヒニ・デイ より強く、共感性を持った音楽家になる決意
唯一無二の存在になることで、ジェンダー・バイアスから逃れてきた
――では女性であることは、あなたのキャリアにどのような影響を与えてきましたか? モヒニ:音楽業界で女性であることは、独自の困難と利点を伴います。性別が違うという理由だけで、否定的な態度や偏見に直面することもありますし、その反面女性であることは自分を際立たせ、私の音楽にユニークな視点をもたらしてくれました。より打たれ強くなり、障壁を打ち破ろうという決意をもたらしました。私の性別はこれまでの旅を豊かにし、自分をより強く、より共感性のあるミュージシャンにしてくれたと信じています。 ――これまでのキャリアで、ジェンダー・バイアスや性差別を経験したことはありますか?また、インドの女性アーティストやクリエーターが直面する最大の課題とは? モヒニ:インドの女性アーティストは、社会的な期待、レプレゼンテーションの欠如、限られた機会など、数多くの課題に直面しています。様々なジャンルにおいて男女の格差が大きく、インドのクラシック音楽、ロック、そしてメインストリームにおいてさえ、女性の数が少ないことが多いです。加えて、伝統的な役割に従わなければならないという社会的な圧力や、クリエイティブなキャリアを追求する女性への支援不足も、これらの課題に拍車をかけています。このような障壁を打ち破るには継続的な努力やコミュニティからの支援、そして業界の構造変化が必要です。 私は、インドの音楽業界で唯一無二の存在になることで、ジェンダー・バイアスから逃れてきました。私のようなベース・サウンドを奏でる人は他に誰もいないし、これはとても意図的です。マスタークラスを開催すると、ジェンダー、年齢など関係なく、自分を否定できない存在にする必要があると生徒たちに話しています。つまり自分の技を十分に磨き、自分が何者で、何をしようとしているのかを正確に理解することです。自信とスキルにおいて高いレベルに達することができれば、チャンスは自ずと生まれてきます。 インドで完全に受け入れたのは、私が国外で成功を収めるようになってからだとも言えます。アメリカ、日本、ヨーロッパでオーディエンスを増やしていったことで、インドの人々にも実力を示すことができた。それ以来、母国で多くの機会を与えられ、尊敬されるようになりました。 ――あなたがこれまでのキャリアで多くの時間を過ごしてきたツアー現場は、圧倒的に男性が多かったと思います。徐々に改善されつつある一方で、まだ女性が声を上げにくい場面もあります。さらにインクルーシブで多様なものにするために何が必要だと思いますか? モヒニ:家庭での教育から始まると思います。娘が音楽の道を進むことをサポートするべき。そうすることで、女性の音大生の数が増え、そのうちの何割かは音楽業界に入っていきます。インドではまだ音楽を学ぶ男子の方が多いです。男子に負けなるな、男子より優れていることを恐れるな、と学生たちに伝える著名な女性ミュージシャンも必要だと思います。中には、男子生徒に好かれたいと思って、目立つことや彼らから注目を奪うのを嫌がる女子学生もいます。このようなメンタリティは完全に根絶する必要がありますね。女の子たちはパワフルで、そのように扱われるべきです。 特にステージ上で女性が機会を与えられることに関しては、多くの改善が感じられます。ですが、個人的に改善を望むのは、圧倒的に男性が多い、プロデューサー、映画音楽作曲家、ミキシング/マスター・エンジニアの分野です。 ――産休や個人的な理由による長期休職後にキャリアを再開する際のハードルも少なくありません。女性アーティストが長いキャリアを築けるようなサポート体制などあったらいいなと思うものは? モヒニ:子供がいないので、この点について個人的には言及できませんが、なぜ重要なのかは理解しています。まず、世界中の女性に声をかけ、バンド・リーダーになること、自分の曲を書くこと、自分のブランドや会社を立ち上げることを勧めたいです。サイド・ミュージシャンとしてのみ活動していくと、メイン・アーティストではないため、ライブのオファーがなくなることがあります。誰もが他のアーティストのために演奏をするべきですが、それ以外の時間はすべて自分の名前を知ってもらうことに費やすべきです。そしてソロ・キャリアに移行する時期が来たら、とことんやるべきですね。 産休に関しては難しい問題ですが、おそらく政治的な決断が必要ですね。社会福祉プログラムとして政府から補助金が支給される仕組みなどがあるといいと思います。