「ノルマが達成できないなら、自腹を切っては?」上司が“自爆営業”をほのめかした!これって違法?
● 自爆営業で自己破産、横領に手を染めたケースも 藤枝「そうなんですね。しかし、部品代金や保険料を肩代わりするとなると……いくら売るためだからといって、とても自腹で払える額ではありませんよ」 カタリーナ「昔、あなたと同じように大手車販売店の営業社員で、値引きや部品代金、ガソリン代、保険料などを自己負担する形で過重なノルマを達成した人がいたわ。そのうち借金までして自爆営業をするようになって、借金返済のために代金横領に手を染め、最終的に自己破産したケースもあるのよ」 藤枝「なんだか他人事には思えません……」 カタリーナ「使用者としての立場を利用して、社員に不要な商品の購入を強要することは、不法行為になる可能性があり、パワハラの可能性大ね。公序良俗に反した場合、売買行為が無効となる可能性もある。きっぱりと拒否するべきよ」 藤枝「そうですね、とても勇気が要りますが」 カタリーナ「もし自爆営業が発覚して問題になったとしても、そんな上司は決して責任を取ってくれないわ。むしろ、あなた自身の判断で勝手にやったことだと言うはずよ」 藤枝「そんな……」 カタリーナ「今後も自爆営業を迫ってくるようなら、そのときの会話を録音して証拠を残しておいた方がいいわね」 藤枝「わかりました。そうします」 カタリーナ「自爆営業が民法上の不法行為や公序良俗違反となる場合であっても立証が困難であることや法律上の規制が明確でないことから、実態として放置されていることが多いの。そこで厚労省は、自爆営業が『優越的な関係を背景とした言動』など3要素を満たす場合はパワハラに該当することもあるとして、パワハラ防止指針に明記する方向性を示しているわ」 藤枝「そうなんですか、知りませんでした」
● パワハラと判断されれば、企業は対策を講じる必要がある カタリーナ「誤解のないように言っておくと、営業ノルマは売り上げや成約件数の目標だから、ノルマがあること自体が問題というわけじゃない。大事なことはその内容と対応ね。ノルマ未達成を理由に、罰金控除や商品買取り等の強要があれば、労働基準法違反と考えられるわ」 藤枝「以前から営業ノルマはありましたが、前支店長のときは今のように過剰なノルマではありませんでした。まして、自腹を切れなんて言われたこともありません」 カタリーナ「組織ぐるみで自爆営業を強要してくることもあるようだけれど、あなたの場合、問題は今の支店長のようね。心身にこれ以上の支障を来たす前に、本社の相談窓口に通報してみたらどうかしら」 藤枝「そうしてみます」 カタリーナ「事情を説明して、人事異動を申し出てみることも検討したいわね。とにかく一人で抱え込んじゃダメよ」 藤枝「はい。すぐに相談できてよかったです。うちは社内公募制度があるので、何とかなるかもしれません」 <カタリーナ先生からのワンポイント・アドバイス> ●いわゆる「自爆営業」については、(1)優越的な関係を背景とした言動、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、(3)労働者の就業環境が害されるものという3要素を満たす場合は、パワーハラスメントに該当する可能性があることに鑑み、使用者及び労働者にその旨を周知する観点から、パワハラ防止指針に明記される方向で早期の改正が見込まれている。自爆営業が直ちにパワハラとなるわけではないが、パワハラと判断されれば、企業は雇用管理上必要な措置を講じる義務が生じる。 ●自爆営業による自社商品の購入代金を労使協定なく給与から天引きした場合は、労働基準法違反となる。商品の購入等に応じなかったことを理由に懲戒処分にした場合は、懲戒権の乱用で無効となる可能性もある。 ※本稿は一般企業にみられる相談事例を基にしたフィクションです。法律に基づく判断などについては、個々のケースによるため、各労働局など公的機関や専門家にご相談のうえ対応ください。 (社会保険労務士 佐佐木由美子)
佐佐木由美子