これは“トランプ革命”の始まりなのか?
共和党の主流派、保守派双方に衝撃
これまで共和党の党運営を担ってきた主流派、そしてその主流派に反旗を翻している保守派にとっても、スーパーチューズデーの結果は衝撃的であり、党のアイデンティティの危機、あるいは(やや大袈裟に言えば)党崩壊の危機を表明する声が相次いでいる。 スーパーチューズデーの翌日には、米国務省や米国防総省に政治登用された経験を有する共和党系の有識者60人がインターネット上に公開書簡を出し、トランプ政権による如何なる任命も拒むよう訴えている。また、トランプ氏が共和党候補になることで連邦議会選 ―― とりわけ、あと5議席で民主党が多数派となる上院選 ―― が不利になることを危惧する声も高まっており、有力幹部からは「トランプ批判の選挙戦を展開しても構わない」との指示が出ているという。 どうすればトランプ氏の指名獲得を阻止できるのか? 当面は2つの選択肢しかない。 1つは、トランプ氏への対抗馬を一本化することである。ただ、主流派と保守派の間の一本化は難しい。さらに予備選での戦いを通して、主流派候補の間にも感情的なしこりが強くなっている。主流派のクリス・クリスティ知事は撤退後、主流派の有力馬ルビオ氏ではなく、トランプ氏への支持表明を打ち出している。「勝者総取り方式」が多くの州で始まり、獲得代議員数争いが一気に加速する3月15日のミニ・チューズデー(※) ――あるいはその直後――までに一本化が実現するかは微妙だ。 もう1つは、トランプ氏の獲得代議員数が過半数に到達することだけは何とか拒み、7月の共和党全国党大会で決選投票に持ち込み、主流派と保守派が結託してトランプ氏を引きずり降ろし、そのうえで、例えば、党大会の委員長を務めるポール・ライアン下院議長を担ぎ出すといった荒技だ。ただ、この場合、党員の間に相当深い禍根を残すことになる。 つまりいずれの選択肢も厳しい。
クリントン氏はトランプ氏に勝てるのか?
そうなると、残された究極の選択肢は民主党のヒラリー・クリントン元国務長官に投票し、トランプ氏が大統領になることだけは阻止するというものだ。主流派(穏健派)の有権者にとっては民主党の中道派であるクリントン氏は必ずしも不可能な選択肢ではなく、「トランプ氏よりはマシ」との判断も働きやすい。保守派にとってはより厳しい選択であろうが、例えば、安保保守(ネオコン)のロバート・ケーガン氏は「トランプ氏は共和党のフランケンシュタインであり、国を救うためにはヒラリー・クリントンに投票するしかない」とワシントンポスト紙に寄稿している。 では、クリントン氏はトランプ氏を打ち負かすことが出来るのか? かなり気の早い問いであるが、多くの専門家は両氏が対決した場合、クリントン氏が有利と見ている。各種世論調査ではおよそ10%の差があるようだ。前述の1964年の大統領選で共和党のゴールドウォーター氏が民主党のジョンソン大統領に大敗したように、トランプ氏がクリントン氏に敗れるというわけだ。