これは“トランプ革命”の始まりなのか?
「共和党の顔」になりつつあるトランプ氏
ところが、今回、共和党の候補者指名争いの首位を走るのは実業家のドナルド・トランプ氏。公職経験は皆無。レーガン大統領は映画俳優だったが、大統領選に出馬する前にはカリフォルニア州知事を2期8年務めている(カリフォルニア州は人口やGDPでカナダにほぼ匹敵する)。おまけにトランプ氏は2001~09年までは民主党員だった。 政策的にもTPP反対、富裕層への課税強化、ウォール街や国際金融資本への規制強化、累進課税の強化、社会福祉の拡充を主張している。同性婚や人工妊娠中絶についても明確には反対はしていない(過去には容認するかのような発言もしている)。いずれも共和党の基本方針と真っ向から衝突するものだ。 かといって、シリア難民や不法移民の強制送還、新たな銃規制への反対、オバマケアの廃止(自由市場の活用による貧困層への配慮を主張)、気候変動の否定などは民主党の基本方針にもそぐわないのだが、共和党の主流派や保守派からすれば「党内極左」に映る。 その一方、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の元幹部から支持表明を受けた際、明確に拒む姿勢を即座に示さなかった点などは「党内極右」のレッテルを貼られても不思議ではない(1984年にKKKがレーガン大統領の再選を支持した際、同大統領は強い文言で拒否表明している)。いわんや奴隷解放を宣言したリンカーン大統領とはあまりにかけ離れている。 共和党の主流派や保守派からすれば、まさにリンカーンやレーガンの政党であるはずの共和党を、偽りの保守主義者(あるいはアウトサイダー)によってハイジャックされているような気分であろう。 そして、今回のスーパーチューズデーで明らかになったのは、そのトランプ氏が今やまさに「共和党の顔」になりつつあるという現実である。 当初こそ「プア・ホワイト」(白人の労働者層・貧困層)が支持基盤だったが、2月以降、少なくとも共和党内に関してはあらゆる層に支持を拡大している。今回のスーパーチューズデーでもキリスト教保守派(福音派)が人口の40%(共和党有権者の75%)近くを占める南部のアラバマ州やテネシー州などで保守派のクルーズ氏を凌駕している。その一方、マサチューセッツ州やバーモント州などリベラル色の強い北東部でも勝利している。さらには両派が混在するオハイオ州やフロリダ州と並ぶ本戦での激戦州の1つ、バージニア州も手中に収めている。