これは“トランプ革命”の始まりなのか?
米大統領選の候補者指名争いの最大のヤマ場「スーパーチューズデー」で、共和党のトランプ氏と民主党のクリントン氏がともに7州を制し、独走態勢を固めつつあります。特に、勢いが止まらないトランプ氏に対しては、身内の共和党内からも懸念が表出しています。米政治の歴史を振り返る中で、このスーパーチューズデーの結果から読み解けるものは何でしょうか。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に、寄稿してもらいました。 【写真】トランプ氏にサンダース氏 「異端」が躍進する米大統領選
米政治を転換させた「レーガン革命」
“トランプ革命の始まり?” 今回、スーパーチューズデーの開票情報をNHK-BSの特別番組で解説しながら、私の脳裏を何度もよぎったのはこの言葉だった。
その際、私が念頭に置いたのは、当然、かつての「レーガン革命」である。少し歴史を振り返ろう。 1964年の予備選で共和党のバリー・ゴールドウォーター上院議員は「共和党と民主党には違いがほとんどない」と共和党内の主流派(穏健派)を挑発し、党の候補者指名を獲得、本戦では民主党のリンドン・ジョンソン大統領に大敗したものの、「保守政党」として共和党のアイデンティティを強く打ち出した。ゴールドウォーターの路線はリチャード・ニクソン大統領によって継承され、1981年のロナルド・レーガン大統領の就任によって大成した。
レーガン大統領は党内の主流派と保守派(財政保守、社会保守、安保保守など)の和合に成功し、アメリカの政治潮流は大恐慌(1929年)を契機にそれまで約50年間続いた「リベラルの時代」(=「大きな政府」の時代)から「保守の時代」(=「小さな政府」の時代)へと大きく転換した。 1861年のエイブラハム・リンカーン大統領の就任を機に「リンカーンの政党」となった共和党は、1981年の「レーガン革命」によって「レーガンの政党」となった。今日でもレーガン大統領は共和党の英雄であり、今回の共和党内の候補者討論会でも互いに自らが如何に「レーガン革命」の正統な後継者であるかを競い合う場面が多々あった。その点は主流派のマルコ・ルビオ上院議員も保守派のテッド・クルーズ上院議員も変わらない。