これは“トランプ革命”の始まりなのか?
ただし、私個人はそう達観するのは早いと考えている。今回のスーパーチューズデーでクリントン氏は民主党の候補者指名をほぼ確実にしたと考えるが、コロラド州、オクラホマ州、ミネソタ州など白人が人口の80%以上を占める州ではバーニー・サンダース上院議員に敗れている。白人票や若者票に関しては不安が残る。経験や実績、安定感はあるが、その分、新鮮味に欠け、有権者を鼓舞しにくい。おまけに国務長官時代の私用メール問題に象徴されるように「正直さ」「誠実さ」という点ではかねてより弱点が指摘される。 サンダース氏やトランプ氏のような「異端」が台頭し、「職業政治家」や「ワシントン」への反発が「旋風」と化している今回の大統領選にあって、それはクリントン氏にとっては「逆風」となり得る。さらに言えば、今回のスーパーチューズデーに参加した有権者は共和党が830万人、民主党が560万人と、共和党の方がはるかに盛り上がっている。 トランプ氏はスーパーチューズデーの勝利演説で「クリントン氏は格差是正を訴えている。では、これまでの長い政治経験のなかで一体何をやってきたのか」と批判した。従来、「共和党 vs.民主党」「保守vs. リベラル」と構図のなかで米政治は織り成されてきた。それを「アウトサイダー vs.インサイダー」という構図に置き換えることができれば、トランプ氏にも十分勝機はあるように思える。少なくとも専門家の予測を次々と覆し、不可能を可能にしてきた人物であることは、これまでの予備選で証明されてきた。
行く末は「進化」か「退化」か
ちなみに、トランプ氏は今年1月にCNNのインタビューで次のように語っている。「ロナルド・レーガンは若い頃、かなりリベラルな民主党員だった。だが、やがてかなり保守的になり、そして偉大な大統領になった」。 そうした「進化」(evolution)こそレーガン大統領の本質であり、その部分に自らを重ね合わせることで「レーガンの政党」の候補者であることを正当化しようとしているのだろう。 「進化」(evolution)は「革命」(revolution)へと通じるのか。そしてトランプ革命は共和党そのものの「進化」を意味するのか。それとも「退化」を意味するのか。 まさに歴史的な意義を持つ大統領選となってきた。
-------------------------------------------- (※)3月15日にオハイオ州やフロリダ州など大票田の激戦州を含む5州で予備選が行われる ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など