「松谷武判 Takesada Matsutani」(東京オペラシティ アートギャラリー)レポート。戦後日本を代表する抽象画家・松谷武判が求めてきた「美」の軌跡をたどる
グラファイトによる「黒の世界」から表現の拡大へ
4章で紹介されたグラファイト(黒鉛)によるドローイングの試行は、幅10mにおよぶドローイング群に結実。5章「黒の世界」では、そうした大型の作品、ホワイトスピリット(揮発性油)でグラファイトを流す表現や、ボンドによる造形にグラファイトの黒を重ねた新境地の作品が展示される。 ヴェネチア・ビエンナーレ、ポンピドゥー・センターでの回顧展など、改めて国際的な評価が高まる松谷。6章では2000年代以降、ますます自由でおおらかになっていく様が爽快だ。 階上(4階)のギャラリー3では、「紙作品にみる形成期の模索と制作の裏側」と題して、10歳から22歳まででの紙作品も紹介されている。そこには田舎情緒溢れる風景画もあり、革新的な抽象表現の源流にはこうした風景があるのか、と親近感を覚えた。 インタビューでは「美を作る」「本当の美」という言葉を口にしていた松谷。自身が求めてきた「美」とはどういうものなのか、本展ではそれがわかるはずだ。
Chiaki Noji