「成績が良かったのになぜこんなことに…」突然“通信制に行く”と言い出した息子。受け入れられない母親が見落としている“根本的な問題”
勉強ができない=「落ちていく」?
【ひとし】 お子さんの進路についてのお悩みですね。 【はるか】 うん。長文で詳しく現状を伝えてくださって、親御さんの深い愛情がよく伝わってきました。ただ、その親御さんの愛情と息子さんが、うまくかみ合っていないのかも、という印象も受けたんですよね。なので今回は、何か具体策や方法論を紹介するというより、もっと根本的なところに目を向けてみたいと思います。 【ひとし】 うんうん。それにしても、この子、すごいよね? 「通信制に行く」って決断を自分でしているのとかさ。俺は中学生の頃、自分で進路を決めるとかできなかったよ。 【はるか】 そう! 間違いなく僕らが15歳の頃より自立してるよね。やりたいことを明確に持ってて、それに向けて自分で計画を考えている。その意志が本当に尊いなと思います。 【ひとし】 どうすれば親御さんの愛情が良い方向へ向かうのか考えたいね。 【はるか】 文面の中で少し気になったのが、「落ちていく」という表現です。もちろん勉強や進学は大事なことだし、親御さんの心配は痛いほどわかります。でも、本当に落ちているのかなってところをまずは見直したい。 そこで今回は「人間の価値」についての考え方を紹介したいと思います。公認心理師でアドラー心理学に詳しい小倉広さん(※1)は、人には「機能価値(※2)」と「存在価値」という二つの価値がある、と分類されています。機能価値というのは、人の能力に注目した価値で、たとえば「この人は勉強ができるからすごいね」とか「仕事ができるから価値のある存在だ」と考えるもの。一方、存在価値は「何ができるかできないかは置いておいて、その人の存在そのものに価値があるよね」と考えるものです。 たとえば、学校とか会社で評価が低かったとき、「自分には存在価値がないんじゃないか……」って悩んだことない? 【ひとし】 ある! 俺はもう何回もそうやって悩んできた。 【はるか】 そうだよね。でも、評価というのは機能価値による価値基準でしかないんです。小倉さんは、そもそも機能価値と存在価値というのは全くの別物で、たとえ評価(機能価値)がどれだけ低かろうが、あなたの存在価値は1ミリも変わらずある、と断言されています。ここが大事なんだよね。 【ひとし】 なるほど、全くの別物……。 【はるか】 「勉強ができるか」「良い学校に進学できるか」という機能価値から考えたら、たしかにこの息子さんは「落ちている」と言えるのかもしれません。でも、それとは別に、息子さんには存在価値がある。それは見失わないでほしいな、と思いました。 【ひとし】 うんうん。 【はるか】 そして、小倉さんは「自分の存在価値を理解していることは、結果的に、機能価値の向上に寄与することにもなる」と主張されています。機能価値を重視すると、たとえばテストで良い点数が取れたら「自分は価値ある存在だ」と思えるけど、悪かったら「自分は価値がないのかも」と感情が揺らいでしまいます。その結果、モチベーションが不安定になって、結果的に成績(機能価値)も落ちていく。一方で、「テストの点にかかわらず、自分はここにいる価値があるんだ」と真に理解できていれば、感情の波ができにくくなる。それがモチベーションの安定につながって、成績を上げることにもつながっていくんだ、と。 ※1 小倉広:公認心理師、アドラー派の心理カウンセラー。主に経営者、ビジネスマンを対象とする企業研修などを行う。株式会社小倉広事務所代表取締役。 ※2 機能価値、存在価値:小倉氏がアドラー心理学の「勇気づけ」をわかりやすく理解する手助けとして用いた言葉(アドラー心理学の考えではない)。参考文献『もしアドラーが上司だったら』(小倉広著、プレジデント社)