アイザック・ジュリアン「Ten Thousand Waves」(エスパス ルイ・ヴィトン大阪)レポート。マギー・チャンらが出演する映像詩が綴る、見えざる者たちへのレクイエム
「私たちも同じ運命かも」
49分とけっして短くはない映像作品だが、時間を感じさせない没入感がもたらされていたのは、9のスクリーンを移動しながら見るような鑑賞方法と立体的なサウンド環境によるものだろう。目の前のスクリーンを注視していると、シーンが切り替わり別のスクリーンでストーリーが展開していく。まるで舞台作品を見ているような効果と作家の遊び心も感じられる。 「本作を通してディアスポラ、そしてより広い意味での中国文化を考えたかった」と語った作家。これまでに紹介した女優やアーティスト以外にも、詩人のワン・ピン(屏王)やアーティストのヤン・フードン(楊福東)、撮影監督のチャオ・シャオシ(趙暁時)、そして100人におよぶ中国人スタッフが関わっているという。 本作のモノローグの中に、「私たちも同じ運命かも」というセリフがあった。ジュリアンの両親も、本作が捧げられた23名の死者も移民である。なんらかの理由で母国を離れざるを得ない人々が多く存在するこの世界でこの言葉は重く響き、本作が描ききれなかったいまここにいない者たちの声に耳を傾ける時間になっていた。
Chiaki Noji