SNSの陰謀論がテロの火種になる...日本にも遍在する「暴力を誘発する土壌」
SNSとAIの登場により、誰もが手軽に情報を拡散できる時代になった。便利な一方で、ネットで広まった陰謀論と偽情報が暴動を引き起こしたケースも見受けられる。国際政治学者の宮坂直史氏は、現代の日本には「テロリストが利用しかねない土壌がある」と警鐘を鳴らす。 ※本稿は、『Voice』2024年10月号より、より抜粋・編集した内容をお届けします。
少数派VS多数派 遍在するテロの土壌
1970年以降の約50年間に、日本で起きたテロの総件数は405件に上る(米国のGlobal Terrorism Database)。だが近年は少なく、21世紀に入ってからは44件、そのうち多数の死者が出たのは2016年の津久井やまゆり園事件(神奈川県)のみである。 なお、日本では「バイトテロ」「飯テロ」など人口に膾炙(かいしゃ)した用語があるから最初に断っておくが、本稿でテロとは、政治的な目的を抱いている者が、その目的のために行使する暴力のことである。 前掲のやまゆり園事件は、実行犯(死刑囚)の衆議院議長宛ての手紙の内容や、事件前後の一貫した言説から、優生思想に基づく彼なりの世直し願望という政治性が確認できるからテロとみなすのが妥当なのである。 この事件もそうだったが、われわれはつい被害の大きさに目が向いてしまう。だがそれ以上に注視すべきは、テロリストの主張や思想が同時代の人々に共感され、類似のテロが持続的に発生しているか否かである。 幕末期の攘夷派、明治期の不平士族、大正・戦前昭和のアナーキストや右翼、そして戦後の新左翼のテロには持続性が見られた。これらも含めて、テロの背景には常に、多数派と少数派の対立構図が垣間見える。 多数派とは国の多数民族などの属性を指す場合もあるし、体制とか一般国民を暗示することもある。少数派とは移民、権力者、革命戦士など、これも文脈によってさまざまな集団を指す。少数派VS多数派は、古今東西あらゆるテロリストが戦いの物語の中で強調してきた想像の産物でもある。 現在の日本にもテロリストが利用しかねない土壌がある。少数派の外国出身者やLGBTQ、障碍者が配慮、優遇されていると一方的に不公平感を抱く者が多数派の中に存在する。さらには今後、社会保障的に不遇を被っていると信じる人口構成上少数派の若者が、多数派の高齢者に対して憎悪をたぎらせるのではないか。 また、いま安全保障を沖縄で強化しなければならない中で、沖縄県民(少数派)と本土の人(多数派)のあいだには認識のズレがある。沖縄県民は、米軍基地の負荷以前に、地上戦と旧日本軍の行状を決して忘れていない。県民の一部にある軍事的なものへの不信の根源は、戦時中に遡る。 沖縄県民は戦争を学んできたが、本土の日本人は戦争に概して疎い。学校では(本土で起きたことでも)たいして教えない。テロリストや外国勢力が沖縄と本土の認識ギャップを利用して、より大きな政治的な分裂をもたらす悪夢でさえ想像できてしまう。