SNSの陰謀論がテロの火種になる...日本にも遍在する「暴力を誘発する土壌」
SNSとAIがテロの着火に
テロが起きる前には、テロリストにとって行動の動機付けになるような出来事がある。いまやそれがSNSを通じて曲解されたり、偽情報が追加されたりして、暴動やテロを誘発しやすい認知環境になっている。 SNSは、情報や思考のコストをかけず、要点だけわかればよい、と思う人には神器であろう。新聞を読むのは非効率だし、紙面を大きく広げるのも面倒。本は高いし、たくさんあるとスペースもとるから買わない。こうした「コスパ」の追求は、問題の複雑な背景と解決の難しさは無視することだから、身辺の軽量化だけではなくアタマの中もスッキリと空洞化する。 それでも人間には、問題を理解していると思われたい、ヒトから承認されたい欲求があるから、たとえばニュースの第一報に接しただけで何が悪いと即時に決めつけ、書き込み、「いいね」を押したり、リツイートしたりする。よくわからないことでもいちいち反応する。もはやロボット以下の、サブ・ヒューマンたちの集団浅慮の残骸がネットの中にゴロゴロころがっている。 問題は、こういうヒトが増えるほど偽情報や陰謀論は燎原(りょうげん)の火のごとく広がり、それが暴力誘発の土壌になることだ。陰謀論の多くは国や地域の文化に根差して限定的に流行るものであった。 ところが現在のSNS時代は滑稽なほど超文化的である。前回の米大統領選挙後にトランプ氏と支持者が「票が盗まれた」と騒いで議事堂占拠のクーデター未遂まで起こしたが、日本の路上でも日本人が「マスコミのフェイクに惑わされるな、大統領選挙の決着はまだついてない!」と横断幕を広げてデモをした。 米国でこの種の人たちはコロナ対策にも反発してマスクなどしていなかったが、日本人デモ隊はしっかりマスクをしていた。だが彼らはコロナ・ウィルス以前に陰謀論ウィルスに感染してしまったのだ。暇すぎるのはよくない。いや、そこそこ忙しいからこそのコスパ追求なのか、その代償として、スマホから毒を飲み込んで「マスコミが報じない真相を見つけた妄想病」を発症する。 イスラエルとハマスの戦いもその他の国際問題も、ユーチューバーにごく短時間のうちに洗脳されて、誰が悪いとか、ディープ・ステートが元凶だとか騒ぎ立てる。まともな本など一冊も読んでいないカラッポの脳をすばやく埋めるには敵を仕立てるのが最適で、それで正義感に浸って理解したつもりでいたいのだろう。 こういうヒトが家庭の食卓で口角泡を飛ばして陰謀論ウィルスをばら撒くと、まずは家族でコミュニケーション断絶と不和が起きる。やがてその総和で社会や国に大きな亀裂が入り、さまざまな問題への対処が難しくなる。 この危うい現状に、テロリストが生成AIを悪用すればどうなるか。テロリズムに不可欠なのは暴力と宣伝である。宣伝は大義を普及して味方を増やし、敵を恐れさせる。AIによって使用言語は広がり、演説や声明の中身はより錬成され、映像や画像も虚実効果的に組み合わせられる。 コスパ重視、空洞化した脳ほど敵を求め、自ら進んでそういうエサに飛びつくので、彼らを意のままに操るのも容易になる。首謀者の代理としてテロの思想を拡散してくれる。テロに不可欠な政治的な目的も、簡単につくれて共有されるのが、いまの時代の怖さと言えよう。
宮坂直史(国際政治学者)