飲酒習慣があると薬の効きが悪くなる!【40代、50代・薬と上手に付き合う方法⑨】
もうひとつの弊害は、逆に薬の作用が減ってしまうことがあるそう。確かに、「吞兵衛は薬の効きが悪くなる」と聞いたことがある。それはどうしてなのだろうか? 「簡単に説明すると、薬もアルコールも肝臓で分解されます。ですから、これらを同時に摂取すると、肝臓で分解酵素を取り合うことになるからです。 肝臓でアルコールを分解するためには、シトクロムP450(CYP)という酵素が関与しています。この酵素は一部の薬の分解にもかかわっているため、アルコールを飲んでいると薬の効きに影響します。 また、このCYPは飲酒を続けていると増えて、体のアルコール分解の力が高くなります。飲酒を重ねるとお酒に強くなるのはそのためです。 そのため、飲酒の習慣のある人は、お酒を飲まない人よりもCYPの量が多いので、肝臓での薬の分解が促進されてしまいます。すると、患部に届く薬の量が減ってしまい、結果的に薬の効きが悪くなります。 実際に患部に届く薬の量で考える必要があるのです」
タバコも薬の効きに影響する!
では、喫煙習慣のある人はどうなのだろうか? 「タバコも同様です。喫煙の肺へのダメージはよく知られていますが、実は肝臓にも大きな負担がかかっています。それはタバコに含まれるニコチンやタールなどの有害成分は、肝臓の酵素CYPによって分解されているからです。喫煙によってもCYPが増えるので、飲酒と同様に薬が効きにくくなることがわかっています。 例えば、喘息の薬のテオフィリン、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェン、降圧薬のプロプラノロール、精神安定剤のジアゼパムは、肝臓での分解が促進されて、効きめが弱くなります。 お酒を飲みながらの喫煙は、さらに肝臓に負担がかかり、薬の効きが悪くなるので注意が必要です。 また、手術時などの麻酔も飲酒や喫煙習慣がある人は効きが悪い傾向があります。歯科医では神経の治療や抜歯などで麻酔が使われますが、この前後も飲酒と喫煙を避けたほうがいいでしょう。 飲酒は血流を促すので、傷口からの出血や痛みが増す可能性があり、喫煙はタバコの有害物質が傷口から混入することがあります。痛み止めを飲んでいる場合には、その効き目が弱まることも考えられます。 薬と飲酒や喫煙との関係の有害性は、まだわかっていないことが多く、未知数といえます。薬を飲むときや麻酔を受けるときは、飲酒や喫煙を控えることをおすすめします」
【教えてくれたのは】 鈴木素邦さん 薬剤師。経営学修士(MBA)。「クラヤコンサルティング」代表取締役。城西大学薬学部非常勤講師。東京大学や慶応義塾大学などの教壇に立ち、多くの薬剤師を世に送り出す。薬局薬剤師の経験、多くの薬剤師を輩出した経験をもとに、お客様第一の薬局になれるような薬局向け経営コンサルティングを行う。研修講師としても、薬局経営者向け中心に講座を実施している。著書に『薬の裏側』(総合法令出版)など。 イラスト/いいあい 取材・原文/山村浩子