『ルックバック』が宿すアニメーションの21世紀性 令和の『まんが道』が示すものとは
こうの史代の原作をアニメーション化した片渕須直監督の『この世界の片隅に』(2016年)がそうだったように、あるいは大今良時の原作をアニメーション化した山田尚子監督の『映画 聲の形』(2016年)もそうだったように、原作自体がすでに高い評価を獲得しているマンガ作品を、優れた作り手によって映像化したアニメーション作品が、原作にはなかった作品としての新たな魅力や可能性をさらに帯びるということが往々にしてある。 【写真】場面カット(複数あり) 大人気マンガ『チェンソーマン』で知られる藤本タツキが2021年7月に発表し、各方面で大きな反響を呼んだ長編読切作品『ルックバック』が、当代きっての実力派アニメーター、押山清高の脚本・監督によって劇場アニメーション映画化され、6月28日の公開後、口コミによって異例の大ヒットを続けている。興行収入は、公開から9日間で6億円を突破した。今年を代表するアニメーション映画の1本になることは間違いないだろう。 『ルックバック』は、山形に暮らす小学4年生・藤野(CV:河合優実)と、同級生ながら引きこもりで不登校を続ける京本(CV:吉田美月喜)という、マンガを描くことで結ばれた2人の少女の青春期までを追う人間ドラマである。絵を描くことが好きで、学年新聞に連載していた4コママンガも教師や同級生から好評だった藤野は、自分の才能に悦に入っていた。そこに、不登校生ながらプロ並みの緻密な画力を持つ京本という同級生のマンガが突然掲載されると、周囲の評価は一転。藤野はプライドがズタズタになるが、それから何年にもわたって取り憑かれたように絵の練習に向かっていく。だが、どれだけ努力しても京本に画力で敵わない藤野は6年生になって、マンガを描くことをやめてしまう。しかし小学校の卒業式当日、ひょんなきっかけで卒業証書を京本の家に届けに行った時、京本本人から実は藤野のファンであると告白され、才能を熱烈に称賛されると、藤野は再び絵を描き始め、京本とマンガを合作し、中学生になった2人は出版社に持ち込みを始める。そして、2人の描いた読切マンガが雑誌に掲載され、中学生コンビ「藤野キョウ」としてついにデビューを果たす。しかし、高校を卒業する頃、2人の進路は分かれていく。