「なんとかならないの?」ステージ4の悪性リンパ腫から生還した笠井信輔が衝撃を受けた「がん治療」の光と影(レビュー)
そして、何よりも、その告発をこれだけの1冊の本を書いて行うというその迫力。読みながら思う。 このルポ、大丈夫か!? 下山氏の“覚悟”にハラハラさせられる。 学会から出入り禁止となっても、書くことをあきらめない下山氏。 厳しい医学界のヒエラルキーの中で、そのTOPにいる権威ある医師を実名で書き記し、かつ鋭く疑問を発しているのだ。 これは公開質問状といってもいいかもしれない。 本書の導入部は少々難しいと感じるかもしれない。その配慮から、25章からなる各章の始まりには「サマリー」、章ごとのあらすじが書かれていて大変助けになった。配慮の行き届いた構成だ。 さらに言うならば、下山氏の前著『アルツハイマー征服』の時もそうだったが、下山氏は医学の進歩を描きながら、人を描いている。だから面白い。 この手の医療開発ルポは、新書であれ、雑誌であれ、新聞であれ、施設の写真、豊富な最新医療機器や画像データの写真で興味を引くもの。確かに原子炉建屋内の手術室の写真はあるが、260pに及ぶ本書には、そうした写真はほとんどなく、人物の写真ばかりだ。 すべては人間の行っていることであり、新薬や新たな治療法の開発者たちはどんな性格で、どんな思い、情熱、葛藤、希望、ストレスを感じながら研究を進めていったのか。 すべては人間ドキュメント。 そのプロセスに、真実が隠されている。それぞれの思惑やキャラクターを掘り下げることによって見えてくるものがある。 そこが下山ルポの真髄なのだ。 これは、偉業をたたえるだけでなく、その偉業の影に隠れて見えにくかった“大いなる闇”を白日の下にさらす「裏プロジェクトX」なのだ。 がん患者、サバイバー、その家族、そして特に医療関係者、さらにはノンフィクションファン必読の書である。 [レビュアー]笠井信輔(フリーアナウンサー) かさい・しんすけ1963年生まれ。早稲田大学を卒業後、1987年、フジテレビにアナウンサーとして入社。1999年から2019年まで『とくダネ!』にサブMCなどで出演。2019年10月よりフリーに。その後に悪性リンパ腫に罹患したが、完全寛解し、現在はタレント活動を継続している。著者に『生きる力 ―引き算の縁と足し算の縁―』(KADOKAWA)など。Amebaブログ「笠井TIMES」 協力:新潮社 新潮社 Book Bang編集部 新潮社
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