真珠湾攻撃の裏で暗躍した「二重スパイ」の正体…戦場の英雄やセレブなどの顔を持った“怪物”
■ラトランド、お前は誰だ? ラトランドとは何者だったのか? ドラブキン氏は、機密解除されたFBIの文書を駆使して、<二重スパイ>の正体に肉薄している。 ラトランドの有為転変の人生は、読者に強い印象を残す。イギリスの労働者階級に生まれたラトランドは、第一次世界大戦にパイロットとして従軍。危険を顧みず仲間の命を救う勇敢さで、一躍英雄となった。しかし、“成り上がり”は、“格差社会”だったイギリスの壁に突き当たる。軍での出世に見切りをつけると、同盟国だった日本海軍のコンサルタント業務に活路を見いだし、航空戦力を重視する山本五十六に接近。航空母艦の設計に関わり、三菱航空機で働いた。
1931年、満州事変を境に、日米関係が悪化すると、来るべき開戦に備えて、アメリカ西海岸で情報収集を行うスパイとして、ラトランドに白羽の矢が立った。 実業家としてハリウッドの社交界でデビューすると、チャーリー・チャップリンと同じクラブに通った。後にチャップリンの秘書の日本人・高野虎市を諜報網に取り込んだ。映画スターと酒を酌み交わしながら、悠然とスパイ活動にいそしむ姿は、007ことジェームズ・ボンドも顔負けだ。だが、捜査の影は着々と伸びていた。
本書によって白日の下にさらされたのは、ラトランドの身柄をめぐるアメリカ海軍情報局(ONI)とFBIの確執だ。危険を察知したラトランドは、ONIのエリス・ザカライアス少佐と蜜月関係を結び、二重スパイとなった。日本海軍の情報を渡すことで、身の安全を確保しようとしたのである。しかし、エドガー・フーバー長官率いるFBIは、アメリカの安全を危うくする存在を野放しにできなかった。両者の攻防は、FBIの勝利に終わり、大日本帝国海軍のスパイ作戦に従事していた立花止中佐の逮捕へと発展する。全米のスパイ網を統括するワシントン駐在武官の横山一郎大佐は激怒し、危機は最高潮に達した。